焙煎したてが、一番おいしい?
「焙煎したてのコーヒーです」
そう聞くと、なんとなくおいしそうに感じます。
焼きたてのパン。
炒りたてのナッツ。
できたての料理。
食べ物では「できたて」に価値があるものがたくさんあります。
それならコーヒーも、
焙煎した直後が、一番おいしいのでしょうか。
前の記事では、「新鮮」と「飲み頃」は必ずしも同じではないと考えました。
今回は、その続きをもう少し見てみます。
焙煎が終わっても、豆の変化は終わらない
焙煎機から豆を出して冷却する。
これで焙煎という作業は終わります。
でも、豆の変化まで完全に止まるわけではありません。
焙煎した豆の中には二酸化炭素などのガスが残っていて、その後少しずつ外へ出ていきます。
香りに関係する成分も変化していきます。
酸素や温度など、保存環境からの影響も受けます。
つまりコーヒー豆は、
焙煎終了時に状態が固定される食品ではない
ということです。
焙煎した翌日と、一週間後と、一か月後。
同じ豆でも状態は少しずつ違います。
焙煎直後には、ガスが多く残っている
焙煎中には豆の内部でさまざまな反応が起こり、二酸化炭素などのガスが生じます。
焙煎後、そのガスは時間をかけて豆の外へ出ていきます。
いわゆる「デガス」です。
焙煎して間もない豆を挽いてドリップすると、大きく膨らむことがあります。
これは豆から出てくるガスの影響です。
見た目にも分かりやすいため、
「よく膨らむ=新鮮=おいしい」
と考えたくなります。
しかし、この三つは同じ意味ではありません。
ガスは、抽出にも影響する
コーヒーを抽出するときには、湯とコーヒー粉が接触します。
ところが粉からガスが盛んに出ていると、湯と粉の接触にも影響します。
ドリップで最初に少量の湯を注いで「蒸らし」を行うのも、こうしたガスの影響と無関係ではありません。
焙煎直後でガスが非常に多い状態と、少し時間がたって落ち着いた状態では、同じように抽出しても同じ結果になるとは限りません。
だから、
焙煎したてほど抽出しやすい
とは限らないのです。
少し置くと、おいしくなる?
そこで、
「焙煎したら少し寝かせた方がおいしい」
という話が出てきます。
これも一面では納得できます。
時間がたつことでガスの放出が進み、抽出時の状態が変わります。
風味の感じ方が落ち着いたと感じることもあります。
しかし、
「○日寝かせれば必ずおいしくなる」
とまでは言えません。
どのくらい時間を置くかは、
豆。
焙煎度。
焙煎の仕方。
保存方法。
抽出方法。
そして、どんな味を求めているのか。
によって変わります。
ここでも「○日」という数字だけを正解にするのは少し乱暴です。
浅煎りは長く、深煎りは短く?
「浅煎りは長く休ませる」
「深煎りは早めに飲む」
といった目安を聞くこともあります。
焙煎度によって豆の構造やガスの放出の仕方などが異なるため、時間変化に違いが出ること自体は不思議ではありません。
ただし、
焙煎度だけで飲み頃の日数が決まるわけではありません。
同じ「浅煎り」という名前でも焙煎は同じではありません。
豆も違います。
包装や保存環境も違います。
さらに「飲み頃」を何で判断しているかも違います。
だから、
「浅煎りだから14日」
「深煎りだから3日」
のような数字を、そのまますべてのコーヒーに当てはめるのではなく、まず目安として扱う方がいいでしょう。
飲み頃は「一点」なのか
もう一つ考えてみます。
飲み頃というと、
「この豆は焙煎後7日目がベスト」
のように、一つの日を探したくなります。
でも本当に、7日目だけがおいしくて、6日目や8日目は劣るのでしょうか。
実際には、
焙煎後5日ではこんな香り。
10日では少し違う。
20日ではまた違う。
というように、連続して変化しています。
その中に、
自分が好ましいと感じる期間がある
と考えた方が自然な場合があります。
飲み頃は「点」ではなく、
ある程度の幅を持った期間
として考えることもできます。
しかも、好みだけの問題でもない
では、
「好きなときが飲み頃」
で終わるのでしょうか。
それだけでもありません。
コーヒー屋が商品として販売するなら、
狙っている風味が十分に感じられるか。
抽出しやすい状態か。
お客様が家庭で扱いやすいか。
配送に何日かかるか。
開封後にどのくらい楽しめるか。
といったことも考えます。
店で飲むなら、焙煎日から抽出日までを店側で管理できます。
豆を販売するなら、お客様がいつ開封して、いつ飲み終わるかまでは完全には決められません。
だから販売する側の「飲み頃」は、
一番おいしい瞬間だけを探せばいいわけではありません。
ある程度の期間、狙った品質を楽しめることも重要になります。
「焙煎後○日」を決めるなら
では、自分たちのコーヒーについて飲み頃を知りたければ、どうすればいいのでしょう。
一つの方法は、実際に時間を追って飲んでみることです。
焙煎翌日。
3日後。
7日後。
14日後。
さらにその先。
同じコーヒーを、なるべく同じ条件で比較してみます。
そのとき、
「おいしい・まずい」
だけで記録すると、後で何が変わったのか分かりにくくなります。
香りはどうだったか。
酸味はどう感じたか。
甘さはどうだったか。
苦味はどうだったか。
口当たりはどうだったか。
抽出時の状態はどうだったか。
何が変わったのかを見る。
すると、
「7日目が100点」
というより、
時間とともに何が変わっていくのか
が見えてきます。
ここでも、見る項目を増やせる
前の記事までに出てきた話ともつながります。
最初は、
「焙煎から何日たったか」
だけを見ていたとします。
でも、それだけでは違いを説明できない。
そこで、
保存温度。
開封した日。
豆のままか、粉か。
包装方法。
抽出条件。
などを見るようになる。
これは「日数」を細かくしたのではありません。
観察する項目を増やしたわけです。
さらに、
「一週間くらい」
ではなく、
「焙煎後7日」
「焙煎後10日」
と細かく見るなら、時間の解像度を上げています。
何を細かくするのか。
何を新しく見るのか。
ここを分けると、時間変化も調べやすくなります。
でも、全部記録する必要はない
もちろん、毎朝コーヒーを飲むたびに、
室温、湿度、豆温、粒度、抽出液濃度、保存時間、酸素濃度まで記録する必要はありません。
それでは朝食より実験の方が長くなります。
知りたいことに必要な条件だけを見る。
「焙煎後の日数による変化を知りたい」なら、まずほかの条件をなるべく揃えて日数を変えてみる。
そこで説明できない違いが出てきたら、別の項目を見る。
最初から全部を見るのではなく、必要になったら観察を細かくする。
その方が、何が違いに関係しているのかも考えやすくなります。
飲み頃は、一度決めたら終わり?
たとえば何度か試して、
「このコーヒーは焙煎後7日くらいからがいい」
という基準を作ったとします。
それは役に立ちます。
販売するときにも説明できます。
自分たちの品質確認にも使えます。
でも、その数字を永久に固定する必要はありません。
生豆が変わった。
焙煎を変えた。
包装を変えた。
保存方法を変えた。
抽出方法を変えた。
そうすれば、以前決めた「7日」という基準が同じ意味を持つとは限りません。
ここでも、
基準、決めたのは何のためだったか?
に戻ります。
目的は7日を守ることではなく、そのコーヒーを狙った状態で楽しめる時期を知ることだったはずです。
「焙煎したて」という価値もある
ここまで読むと、
「では焙煎したてには価値がないのか」
となりそうですが、そんな話でもありません。
焙煎直後の香り。
時間とともに変化していく様子。
大きく膨らむ抽出。
それ自体を楽しむこともできます。
「焙煎したて」は、一つの状態です。
ただ、
焙煎したてという状態と、おいしさの順位を同じにしない
というだけです。
新しいから一番。
古くなったから一段ずつ悪くなる。
そんな単純な変化ではありません。
焙煎したてが、一番おいしい?
答えは、
必ずしもそうとは限りません。
焙煎直後から、コーヒー豆は変化していきます。
ガスが抜ける。
香りが変わる。
抽出の状態も変わる。
保存による影響も積み重なる。
その途中に、自分たちが好ましいと感じる状態があります。
だから、
「何日目が正解か」
だけを探すより、
時間とともに、何がどう変わったのか
を見る。
そうすれば、「飲み頃」も誰かが決めた日数ではなく、そのコーヒーを観察した結果として考えられるようになります。