コーヒーの「濃い・薄い」って、何?

コーヒーを飲んで、

「今日は濃い」

「ちょっと薄い」

と言うことがあります。

とても普通の表現です。

そして、だいたい意味も通じます。

ところが、

何が濃いのでしょうか。

苦味が強い。

焙煎が深い。

香りが強い。

口当たりが重い。

使った豆が多い。

水が少ない。

実際に飲料中のコーヒー成分の濃度が高い。

私たちは、かなり違う状態をまとめて「濃い」と呼ぶことがあります。

日常会話なら、それでも困りません。

でも抽出を調整しようとすると、少し困ったことになります。

「濃い」は、味の表現にも使う

深煎りのコーヒーを飲んで、

「濃い」

と感じることがあります。

苦味が強い。

香ばしい印象が強い。

後味が長く残る。

こうした感覚から、「濃い」と表現しているのかもしれません。

でも、それだけでは飲料中に含まれるコーヒー由来の成分の割合が高いとは限りません。

つまり、

味が強く感じられることと、濃度が高いことは別です。

色が濃い、もまた別

見た目から、

「このコーヒーは濃そう」

と思うこともあります。

これも一つの情報です。

ただし色には、使ったコーヒーや焙煎、抽出条件などが関係します。

色が濃く見えることと、私たちが抽出について知りたい「濃度」が、そのまま一対一で対応するとは限りません。

色は色。

味は味。

濃度は濃度。

似た印象を与えることはあっても、同じ情報ではありません。

では、濃度とは何だろう

抽出について「濃度」を考えるときは、

出来上がった飲料の中に、コーヒーから移ってきたものがどのくらい含まれているか

を見ることができます。

コーヒーの抽出では、これを調べるためにTDSという言葉が使われます。

TDSは、Total Dissolved Solidsの略です。

大まかには、

飲料中に溶けている物質の割合

を見るための指標です。

たとえば、二つのコーヒーを比べて、一方のTDSが高ければ、その測定上ではそちらの方が濃度の高い飲料だと考えることができます。

ここで初めて、「濃い」を数値として比較しやすくなります。

TDSが高ければ、味も強い?

ここでも、すぐにつなげない方がいいでしょう。

TDSが高い。

これは濃度についての情報です。

でも、

苦味が強い。

香りが強い。

酸味が強い。

おいしい。

とは、それぞれ別の話です。

同じTDSでも、使ったコーヒーや抽出された成分の状態が違えば、味の感じ方まで同じとは限りません。

だから、

TDSは「おいしさを測る数字」ではありません。

出来上がった飲料の状態を見るための一つの物差しです。

「豆をたくさん使ったから濃い」は?

たとえば、

コーヒー10gに水200g。

コーヒー20gに水200g。

後者の方が「濃くなりそう」と考えるのは自然です。

実際、条件によっては飲料の濃度も高くなります。

でも、豆を2倍にしたからTDSも必ず2倍になる、とは限りません。

豆量を変えることで、

水とコーヒーの比率。

粉の層の厚さ。

水の流れ。

抽出時間。

なども変わる可能性があります。

またしても、一つ動かしたら一つだけ変わる、という親切な世界ではありません。

水を減らせば濃くなる?

これも一般には、濃度を高くする方向へ働くことがあります。

でも、単に完成したコーヒーを水で薄める話と、抽出に使う水の量を最初から減らす話は分けた方がいいでしょう。

完成したコーヒーへ水を加えるなら、主に出来上がった飲料の濃度を変える操作になります。

一方、

抽出に使う水量そのものを変えると、抽出の途中にも影響します。

なぜなら水は、ただ完成した飲料を薄めるために存在しているのではないからです。

コーヒーから成分を受け取る側でもあります。

水も、抽出中に変わっている

ここは抽出を考えるうえで重要です。

抽出を始める前の水には、まだコーヒーから取り出した成分は含まれていません。

ところがコーヒー粉と接触すると、さまざまな成分が水へ移ってきます。

つまり水は、

抽出の最初から最後まで同じ状態ではありません。

コーヒーから成分を受け取りながら、抽出液へ変わっていきます。

同時にコーヒー側も変わります。

取り出されやすい場所にあった成分が水へ移る。

粉の内部の状態も変わる。

残っている成分の状態も変わっていく。

つまり抽出は、

変化していくコーヒーと、変化していく水の間で起きている現象

として考えることができます。

新しい水と、すでにコーヒーを含んだ水

ここから、浸漬式と透過式の違いも少し見えてきます。

フレンチプレスのような浸漬式では、同じ水とコーヒー粉が一緒に存在しながら抽出が進みます。

水側には、だんだんコーヒー由来の成分が増えていきます。

一方ドリップでは、上から新しい湯が加わり、下から抽出液が出ていきます。

もちろん実際の粉の層の中では混ざり合うので、単純に「常に真水が触れている」という話ではありません。

それでも、

水がどのように入れ替わるか

という違いがあります。

同じ「3分」でも、そこで起きていることが同じではない理由の一つです。

「濃い」と「たくさん取り出した」を分ける

ここで、もう一つ言葉を分けます。

出来上がった飲料の濃度。

そして、

元のコーヒー粉から、どのくらいの成分を取り出したか。

これは別の情報です。

後者を考えるときに使われるのが、

抽出率

です。

たとえば、少ない量の飲料にコーヒー由来の成分が多く含まれていれば、濃度は高くなります。

でも、元の粉から見れば、それほど多くの成分を取り出していないこともあります。

反対に、元の粉から多くの成分を取り出していても、出来上がった飲料量が多ければ、濃度はそれほど高くないことがあります。

つまり、

濃度が高いことと、抽出率が高いことは同じではありません。

エスプレッソは濃い

エスプレッソは、一般的なドリップコーヒーより非常に濃い飲料です。

これは「苦いから濃い」という意味ではなく、飲料中のコーヒー由来成分の濃度という意味でも高くなります。

でも、

「濃いから、コーヒー粉から最も多くの成分を取り出している」

とは限りません。

ここでも、

濃度と抽出率を分ける

必要があります。

少ない液体に多く含まれていることと、元の粉から何割取り出したかは違うからです。

薄いのに、たくさん抽出されていることもある

逆もあります。

飲んでみると薄い。

TDSも低い。

でも、元のコーヒー粉から見れば、かなりの量の成分が取り出されている。

そういう組み合わせもあり得ます。

「薄いから抽出不足」

とは限らないわけです。

これは抽出を調整するときに重要です。

濃度を変えたいのか。

抽出の進み方を変えたいのか。

この二つでは、考えるべき操作が変わることがあります。

「濃い」を使ってはいけない?

そんなことはありません。

「今日はちょっと濃いね」

で十分な場面はいくらでもあります。

問題になるのは、

その言葉を使って細かな調整をしようとしたときです。

Aさんの「濃い」は苦味。

Bさんの「濃い」はTDS。

Cさんの「濃い」は深煎り。

これでは、

「もう少し薄くしよう」

と言っても、何を変えるのか一致しません。

だから必要なときだけ、

「何が濃い?」

と一段細かくします。

言葉を捨てるのではなく、必要なときに解像度を上げる

これは以前の、

「一杯って、どのくらい?」

と同じです。

「濃い」という言葉が悪いわけではありません。

普段の会話には、とても便利です。

でも比較したい。

再現したい。

原因を考えたい。

誰かと共有したい。

そうなったときには、

味の強さなのか。

焙煎の印象なのか。

飲料の濃度なのか。

抽出率なのか。

少しだけ言葉の解像度を上げます。

必要なら数字も使います。

コーヒーの「濃い・薄い」って、何?

結局、「濃い」という一つの言葉の中には、いくつもの状態が入っています。

だから、

濃い・薄いという感覚を否定する必要はありません。

まず、それを観察の入口にする。

そして必要になったら、

何を濃いと感じたのか。

実際の濃度はどうなのか。

元の粉からどのくらい取り出したのか。

を分けて考える。

そうすると、

「濃いから豆を減らそう」

「薄いから細かくしよう」

という操作へすぐ飛ばずに済みます。

感じたこと
→ 状態を見る
→ 原因を考える
→ 調整する

という順番にできます。