「抽出率」って、何?

コーヒーの抽出について調べていると、

「抽出率20%」

「18〜22%くらい」

「抽出不足」

「過抽出」

といった言葉が出てきます。

数字が出てくると、急に正解が決まったような感じがします。

でも、その前に確認しておきたいことがあります。

抽出率は、何の割合なのでしょうか。

そして、

私たちは本当に、コーヒー豆から取り出されたものを全部測っているのでしょうか。

ここを理解すると、抽出率という数字の見え方が少し変わります。

コーヒー豆の全部が、水に溶けるわけではない

前の記事では、抽出を、

コーヒーの中にある成分の一部を、水の中へ移動させること

と考えました。

焙煎したコーヒー豆を挽き、水と接触させる。

すると、コーヒーに含まれている成分の一部が水へ移ります。

一方で、抽出後の粉も残ります。

つまり、元のコーヒー粉のすべてが飲料になったわけではありません。

そこで、

元のコーヒー粉から、どのくらい取り出されたのか

を割合として考えることができます。

それが抽出率です。

何に対する割合なのか

たとえば、乾いたコーヒー粉を20g使ったとします。

そこから水へ移ったコーヒー由来の成分が4gだったとします。

この場合、

4g ÷ 20g × 100

で、20%です。

つまり抽出率は、

最初に使ったコーヒー粉の質量を基準にして、そのうちどのくらいが抽出されたか

を見る数字です。

ここでは話を分かりやすくするために「4g取り出された」としました。

問題は、

その4gをどうやって知るのか

です。

抽出された成分を、一つずつ量っているわけではない

一杯のコーヒーには、さまざまな成分が含まれています。

それを全部分離して、

これは何mg。

これは何mg。

これは何mg。

と測って合計しているわけではありません。

日常的なコーヒー抽出の測定では、もっと間接的な方法を使います。

そこで出てくるのが、前の記事でも触れたTDSです。

TDSは、出来上がったコーヒーの濃度を見る

TDSは、Total Dissolved Solidsの略です。

コーヒーでは、出来上がった飲料中に含まれる溶解した物質の割合を知るための指標として使われます。

たとえば、

出来上がったコーヒーが300g。

TDSが1.3%。

だったとします。

単純化すると、

300gの飲料の1.3%に相当する量が、溶けている物質として含まれていると考えます。

計算すると、

300 × 0.013 = 3.9g

です。

つまり、この例では約3.9gの溶解物が飲料中にあると見積もることができます。

その3.9gは、元の粉の何%?

使ったコーヒー粉が20gだったとします。

飲料中の溶解物が3.9g。

なら、

3.9 ÷ 20 × 100 = 19.5%

となります。

このように、

飲料量 × TDS

から飲料中の溶解物量を見積もり、

それを、

最初に使ったコーヒー粉の量

で割ることで、抽出率を求めます。

人間は数字が三つくらい並ぶと難しそうに見える生き物ですが、やっていること自体は、

「最初に20gあって、そのうち何gが飲料側へ移った?」

という話です。

TDSは、どうやって測る?

コーヒーでは、屈折計が使われることがあります。

液体に光を通し、その光の曲がり方、つまり屈折の変化を利用して濃度を推定します。

コーヒーに溶けているものを一つずつ直接数えているわけではありません。

測定した屈折の情報から、

コーヒーの濃度として扱える値へ換算している

わけです。

ここは意外と重要です。

表示されたTDSの数字は、コーヒーの中の全成分を直接秤に載せて量った結果ではありません。

測定から推定された値

です。

だから、測り方にも条件がある

同じコーヒーを測ったつもりでも、

測定する温度。

試料の状態。

機器。

校正。

細かな粒子や気泡など。

測定条件によって値に影響が出ることがあります。

つまり、

「TDS 1.30%」

という数字だけを見ても、

どんな条件で測ったのかによって、その数字の確かさは変わります。

数字になった瞬間に、観察が絶対的な事実へ変身するわけではありません。

測定値には、測定方法があります。

抽出率も「直接測った数字」ではない

ここまでをつなげると、

抽出率についてもう一つ分かります。

一般的な抽出率は、

抽出率計をコーヒーに入れて直接測っているわけではありません。

まず濃度を測る。

飲料量を測る。

使った粉量を知る。

それらから計算する。

つまり、

抽出率は、いくつかの測定値を使って求めた計算値

です。

元になった数字が変われば、当然、計算結果も変わります。

飲料量と注いだ湯量は違う

ここも混同しやすいところです。

20gのコーヒーに300gの湯を注いだから、

出来上がったコーヒーも300g。

とは限りません。

コーヒー粉には水が残ります。

器具にも液体が残ることがあります。

だから抽出率を計算するときに必要なのは、

単純な「注いだ湯量」ではなく、

実際に得られた飲料量をどう扱うか

です。

どの数字を式へ入れたかによって、結果は変わります。

同じ「抽出率20%」でも、計算方法や測定条件を確認する意味があります。

「20%抽出した」は、豆の20%が消えたという意味?

大まかな理解としては、

元のコーヒー粉の質量に対して、飲料側へ移った溶解物の量を割合で表したものです。

ただし、

「豆を20g使ったら、正確に4gが完全に消えて水へ移った」

という物理的な出来事を、そのまま直接観察した数字ではありません。

TDSや飲料量などから計算しています。

だから抽出率は、

抽出の状態を比較するためのモデル化された指標

として考えると分かりやすくなります。

では、18〜22%なら正解?

コーヒー抽出では、18〜22%という範囲を見かけることがあります。

これは歴史的に、一定の抽出条件や官能評価と結びつけて使われてきた重要な目安です。

しかし、

18%未満になった瞬間にまずくなる。

22%を超えた瞬間にまずくなる。

という自然界の境界線ではありません。

豆。

焙煎。

抽出方法。

濃度。

水。

そして、どんな味を目指すか。

条件によって評価は変わります。

だから、この範囲は、

抽出を見るための基準の一つ

として使うことができます。

基準と正解は、同じではありません。

「抽出不足」と「酸っぱい」も同じではない

抽出率が低い状態を「抽出不足」と表現することがあります。

そこから、

抽出不足=酸っぱい

という説明もよく見かけます。

実際に、抽出を進めることで味のバランスが変わり、好ましい方向へ動く場合はあります。

ただし、

酸味を感じた。

だから抽出不足。

だから細かくする。

と一直線につなげるのは危険です。

そのコーヒー自体が持つ酸味かもしれません。

濃度によって感じ方が変わっているかもしれません。

焙煎や水など、別の条件も関係しているかもしれません。

感じた味と、測った状態と、その原因についての仮説は分けておく。

ここでも同じです。

「過抽出」も同じ

抽出率が高くなったとき、

「過抽出だから苦い」

「過抽出だから渋い」

と説明されることがあります。

これも、まず分けて考えます。

抽出率が高かった。

苦味を強く感じた。

渋さを感じた。

これは、それぞれ観察できます。

でも、

抽出率が高かったことだけで、その味の原因がすべて説明されたわけではありません。

前の記事で見たように、実際の粉には粒度分布があり、水の流れも完全に均一とは限りません。

一杯全体の平均的な抽出率が同じでも、粉の一粒一粒、粉の層の各場所が同じように抽出されたとは限りません。

抽出率は「平均」を見ている

ここはかなり重要です。

たとえば計算上の抽出率が20%だったとします。

それは、

すべての粒から均等に20%ずつ取り出した

という意味ではありません。

細かな粒。

大きな粒。

水が多く通った場所。

あまり通らなかった場所。

それぞれでは、抽出の状態が違っている可能性があります。

最終的にカップへ集まった液体を測り、全体として20%程度だったと計算しているわけです。

だから、

同じ抽出率20%でも、そこへ至る過程が同じとは限りません。

同じTDS、同じ抽出率なら、同じ味?

ここまで条件をそろえたら、さすがに同じ味になりそうです。

でも、そうとも限りません。

同じTDS。

同じ抽出率。

でも、

使ったコーヒーが違う。

抽出方法が違う。

粒度分布が違う。

水の流れ方が違う。

抽出の進み方が違う。

なら、カップの中に存在する成分の構成まで同じとは限りません。

TDSも抽出率も、

「何が入っているか」を成分ごとに説明する数字ではない

からです。

それなら、測る意味はある?

あります。

むしろ、ここを理解してから使った方が便利です。

昨日は、

TDS 1.25%。

抽出率19%。

今日は、

TDS 1.35%。

抽出率20%。

味も変わった。

そうすれば、

「何となく違う」

だけだったものに、別の情報を加えることができます。

反対に、

味は違うのにTDSも抽出率もほぼ同じだった。

なら、

少なくとも、この二つの数字だけでは違いを説明できない

ことが分かります。

測定は、答えを出すためだけにあるわけではありません。

何では説明できないかを知るためにも使えます。

数字は、味の代わりではない

抽出率を測れるようになると、

19.5%より20.2%。

20.2%より20.8%。

と、数字を上げること自体が目的になりやすくなります。

でも、本来知りたかったのは、

どんな抽出をすると、どんな一杯になるのか

だったはずです。

抽出率は、その途中を観察するための情報です。

高ければ高いほど優秀、という点数ではありません。

低ければ失敗、という成績表でもありません。

「抽出率」って、何?

抽出率は、

最初に使ったコーヒー粉に対して、飲料側へ取り出された溶解物がどのくらいに相当するか

を見るための数字です。

そのために、

粉量。

飲料量。

TDS。

などの情報を使って計算します。

つまり抽出率は、

豆そのものについている数字ではありません。

抽出という現象を理解し、比較するために人間が作った物差しです。

だから、

20%という数字を見たら、

「20%だから正しい」

ではなく、

どうやって20%になったのか。

そのとき、どんな味だったのか。

まで一緒に見ます。

数字が答えなのではありません。

数字があることで、昨日と今日を比べられる。

条件を変えて、結果を見ることができる。

他の人と共有できる。

そして、ときには今まで使っていた基準そのものを見直すこともできます。

抽出率は、そのための道具です。