3本目は、一般的な「スペシャルティコーヒーとは」の説明ではなく、チバコーヒーが実際に生豆を仕入れ、保管し、焙煎し、販売する立場からどう考えているかにします。
前2本で評価制度や地域差を説明しているので、今回は少し踏み込んで書けます。
チバコーヒーは、スペシャルティコーヒーをどう考える?
「スペシャルティコーヒーだから、おいしい」
「点数が高いから、良いコーヒー」
コーヒーを選ぶとき、こうした言葉はとても分かりやすいものです。
チバコーヒーでも、生豆を仕入れるときにはカッピングスコアを確認します。
産地や品種、精製方法、生産者などの情報も見ます。
それらは、生豆を知るための大切な情報です。
ただし、それだけで仕入れるコーヒーを決めたり、そのコーヒーの価値を決めたりしているわけではありません。
なぜなら、スコアも「スペシャルティ」という言葉も、コーヒーそのものではないからです。
生豆についている「点数」は、どこから来る?
生豆を購入するとき、輸入業者などから、
「SCA 86点」
「87.5点」
といったカッピングスコアが提示されることがあります。
数字だけを見ると、その生豆そのものが「86点」という性能を持っているようにも見えます。
しかし、その点数は測定器に生豆を入れて出てきた数字ではありません。
生豆をサンプル用に焙煎し、決められた方法で抽出し、カッピングして評価した結果です。
SCA方式による評価であれば、香りや風味、酸味、甘さ、後味など、決められた項目を共通の方法で確認していきます。
共通した評価方法があることで、産地やロットの違うコーヒーを比較しやすくなります。
これは、生豆を選ぶうえでとても有用な情報です。
一方で、評価するのは人です。
同じ方法を使えば、誰が評価しても必ず小数点以下まで同じ点数になる、というものではありません。
スコアを見るときには、
「何点だったか」
だけではなく、
「どのような方法で、どの時点のコーヒーを評価したものなのか」
も考える必要があります。
船積み前と、到着したあと
生豆の取引では、同じロットでも違う時点でサンプルを確認することがあります。
たとえば、生産国から船積みされる前に確認する「プレシップサンプル」。
そして、輸送されて到着したあとに確認する「アライバルサンプル」。
同じロットのコーヒーでも、評価している時点が違います。
コーヒーは生産国から日本まで瞬間移動してくるわけではありません。
輸送には時間がかかります。
その間には温度や湿度などの影響も受けます。
そのため、船積み前に確認した状態と、日本に到着したときの状態が完全に同じとは限りません。
プレシップで高く評価されたという情報は重要です。
しかし、実際に私たちが扱うのは、日本に届いたあとの生豆です。
だから、どの時点で行われた評価なのかも、そのスコアを読むための情報になります。
誰が焙煎したコーヒーの点数なのか
もう一つ、意外と見落とされやすいことがあります。
生豆のカッピングスコアは、その生豆を評価用に焙煎したコーヒーを飲んでつけられています。
輸入業者などから提示される評価であれば、基本的には先方でサンプルローストされたものを評価しています。
それは、チバコーヒーが商品として販売するために行う焙煎とは目的が違います。
カッピングでは、生豆がどのような特徴を持っているのかを比較しやすくするために焙煎します。
一方、商品として焙煎するときには、
どんな味にしたいのか。
どの特徴を生かしたいのか。
どんなお客様に届けたいのか。
どんな飲み方を想定するのか。
そうしたことまで考えます。
同じ生豆でも、焙煎によってカップに現れるものは変わります。
ですから、
「この生豆は87点だった」
ことと、
「チバコーヒーで焙煎したこの商品が87点である」
ことは同じ意味ではありません。
スコアは、その時点で行われた評価
チバコーヒーでは、カッピングスコアを軽視しているわけではありません。
むしろ、生豆を比較するための重要な情報として見ています。
ただし、点数をコーヒーに永久に貼り付いた数字とは考えていません。
評価には、
いつ評価したのか。
どのような方法で評価したのか。
何を評価項目としているのか。
誰が評価したのか。
という条件があります。
たとえば「87点」という数字があったとしても、それは、
ある時点のコーヒーを、ある方法と評価項目を使って、評価者が判断した結果
です。
評価方法を揃えることで比較しやすくなります。
評価者が訓練することで、判断のばらつきを小さくすることもできます。
それでも、評価そのものとコーヒーそのものは同じではありません。
だからこそ、点数だけではなく、その評価がどのように行われたものなのかを見る必要があります。
仕入れたあとも、生豆は変わっていく
さらに、チバコーヒーが生豆を仕入れたところで、変化が終わるわけではありません。
生豆は保管している間にも少しずつ変化します。
含水率や水分活性など、測ることのできる状態もあります。
そして実際に焙煎してみると、入荷したばかりのころとは反応が違って感じられることもあります。
カップに現れる風味も、ずっと同じとは限りません。
そのため、
「仕入れたときに87点だったから、この豆はずっと87点」
とは考えていません。
今の生豆がどのような状態なのかを見る。
焙煎する。
飲んで確かめる。
以前と違いがあれば、その理由を考える。
必要なら焙煎の方法も見直す。
同じロットであっても、同じ名前であることと、状態まで同じであることは別だからです。
高得点の味を、そのまま出せばいい?
ここにはもう一つ問題があります。
コーヒーを飲むのは、評価者だけではありません。
チバコーヒーには、いろいろなお客様が来ます。
華やかで個性的な香りを楽しみたい人。
しっかりした苦味やコクのあるコーヒーを飲みたい人。
酸味の穏やかなものを探している人。
毎朝飲みやすいコーヒーを探している人。
ミルクと合わせたい人。
飲食店で安定して提供できるコーヒーを必要としている人もいます。
高いスコアにつながった特徴と、お客様が求めている味が、いつでも同じとは限りません。
だからチバコーヒーでは、
「何点のコーヒーなのか」だけではなく、「誰に、どんなコーヒーとして届けるのか」
を考えます。
生豆の特徴を強く出すことが目的の場合もあります。
一方で、バランスや飲みやすさを考えることもあります。
業務用であれば、味だけでなく、安定して仕入れられることや、価格、提供方法との相性も重要になります。
評価された特徴を知ることと、その特徴をどのように商品として表現するかは、別の仕事です。
誰にとっての「良いコーヒー」なのか
ここで、チバコーヒーが日々考えていることがあります。
誰かにとって高く評価されたコーヒーが、それを購入し、実際に飲むお客様にとっても「良いコーヒー」なのか。
カッピングスコアは、評価者が決められた方法と評価項目に沿って、そのコーヒーを評価した結果です。
高い点数がついたのであれば、その評価につながった理由があります。
その評価は、生豆を選ぶうえで大切な情報です。
しかし、その評価者が高く評価した特徴を、お客様も同じように高く評価するとは限りません。
とても華やかな香りや特徴的な酸味を持つコーヒーが高く評価されることがあります。
それを「今まで飲んだことがない、おもしろいコーヒー」と感じる人もいます。
一方で、毎日飲むなら、もう少し穏やかな味を好む人もいます。
どちらが正しいという話ではありません。
評価者が見ている価値と、実際に飲む人が求めている価値が、必ずしも同じではないということです。
では、コーヒーを仕入れ、焙煎し、販売する私たちは、何を優先すればいいのでしょうか。
生豆が持っている特徴なのか。
カッピングでの評価なのか。
焙煎する側が表現したい味なのか。
それとも、お客様が飲みたいと思っている味なのか。
チバコーヒーでは、このどれか一つだけを常に優先すればよいとは考えていません。
新しい味を紹介することも、コーヒー屋の仕事だと思います。
一方で、お客様が求めているものを無視して、評価の高いコーヒーを「これがおいしいコーヒーです」と押しつけることも違うと考えています。
何を仕入れるのか。
どのように焙煎するのか。
どの商品として販売するのか。
誰に勧めるのか。
そのたびに、誰にとっての「良いコーヒー」を考えているのか、その優先順位を考える必要があります。
そして、その答えはいつも同じではありません。
実際にお客様が選んだもの、もう一度購入したもの、飲んだ感想などを見ながら、私たちの判断も変えていきます。
スペシャルティだから上、コモディティだから下?
チバコーヒーでは、スペシャルティコーヒーをコモディティコーヒーより上に置いて、単純な上下関係として見ることはしていません。
もちろん、コーヒーには品質の違いがあります。
欠点の状態も違えば、風味の明瞭さも違います。
品質評価をする意味がなくなるわけではありません。
ただ、それと「何に価値があるか」は少し違います。
大量に安定して供給できること。
多くの人が日常的に飲める価格であること。
毎回大きく変わらない商品を作れること。
それもコーヒーに求められる価値です。
一方で、産地や生産者、品種、精製、風味など、一つひとつの違いに注目し、その違いに価値を見つけるのがスペシャルティコーヒーの一つの側面です。
そもそもスペシャルティという考え方は、大量に生産され、商品として広く流通するコーヒーがある中で発展してきました。
チバコーヒーでは、コモディティコーヒーがあるからこそ、そこから個々の違いを見るスペシャルティコーヒーにも意味が生まれると考えています。
どちらか一方だけで、コーヒーの世界ができているわけではありません。
「スペシャルティ」という名前で仕入れているわけではない
では、チバコーヒーでは何を見て生豆を選ぶのか。
スコアも見ます。
産地も見ます。
品種や精製方法も見ます。
生豆の状態も確認します。
価格や継続して仕入れられるかどうかも考えます。
そして、可能であれば実際にカッピングします。
重要なのは、それらの情報から、
このコーヒーをどう扱えるのか
を考えることです。
高得点だから仕入れる。
スペシャルティと書いてあるから仕入れる。
反対に、コモディティだから扱わない。
そういう選び方ではありません。
どんな特徴があるのか。
その特徴を焙煎でどう表現できるのか。
チバコーヒーの商品として必要なのか。
そして、それを求めるお客様がいるのか。
そこまで含めて判断します。
評価を信じることと、自分で確かめること
生産者や輸入業者が行った評価は、大切な情報です。
その評価があるから、世界中にある膨大なコーヒーの中から、特徴のあるものを探し、比較することができます。
だから、その評価を否定する必要はありません。
一方で、評価された数字をそのまま答えにする必要もありません。
プレシップでどうだったのか。
到着したときはどうだったのか。
今の生豆はどんな状態なのか。
焙煎するとどう変化するのか。
飲んだときに何を感じるのか。
そして、そのコーヒーを飲む人は何を求めているのか。
それぞれを見る。
仕入先の評価を手がかりにしながら、今ここにあるコーヒーを自分たちでも確かめる。
そして、必要なら判断を変える。
チバコーヒーにとってスペシャルティコーヒーは、「高い点数がついたコーヒー」という完成した答えではありません。
そのコーヒーがどのようなもので、今どのような状態にあり、それをどう扱い、誰にどう届けるのか。
そこまで考えるための、さまざまな情報や評価の一つとして捉えています。
コーヒーは、生産地で評価されたところで終わるものではありません。
輸送され、保管され、焙煎され、抽出され、最後に誰かが飲みます。
その途中で状態も変わり、見る人も、目的も変わります。
だから私たちは、最初についた評価だけを見るのではなく、その時々のコーヒーを見て、確かめながら扱っていきたいと考えています。