コーヒー豆は、冷凍してもいい?

「コーヒー豆は冷凍しても大丈夫ですか?」

冷蔵保存の次に出てくる疑問です。

冷凍すると長持ちする。

いや、結露するからよくない。

冷凍すると香りがなくなる。

凍ったまま挽いた方がいい。

ここでも、いろいろな説明があります。

では、冷凍保存はコーヒー豆にとって良いのでしょうか。

今回も、

「冷凍は○か×か」ではなく、冷凍すると何が変わるのか

から考えてみます。

そもそも、なぜ冷凍するの?

目的は比較的単純です。

保存中の変化を遅くしたいからです。

焙煎したコーヒー豆では、時間とともにさまざまな変化が進みます。

香りに関係する成分が失われていく。

酸素の影響を受ける。

ガスが豆から出ていく。

そのほかの化学的な変化も進む。

温度を下げると、こうした変化の多くは遅くなります。

冷蔵よりさらに低い温度で保存する冷凍には、

コーヒー豆の状態変化を、よりゆっくりにする

という目的があります。

ただし、冷凍したから時間が止まるわけではありません。

変化をゼロにするのではなく、進み方を遅くする。

まずはここからです。

冷凍すると、豆は凍る?

「冷凍」という言葉から、水を凍らせた氷のような状態を想像するかもしれません。

でも焙煎したコーヒー豆は、水分を多く含む食品ではありません。

そのため、

「豆の中の水が全部氷になって、カチカチに凍る」

というイメージだけで考えると少し違います。

家庭用冷凍庫に入れれば豆そのものの温度は大きく下がります。

そして、その低温によって保存中のさまざまな変化が遅くなります。

大事なのは「凍ったかどうか」という言葉より、

豆を低い温度に保つことで、変化の速度がどう変わるか

です。

冷凍庫の中も、どこでも同じではない

前回、冷蔵庫の中にも場所による違いがあると考えました。

冷凍庫も同じです。

家庭用冷凍庫の中が、常にどこでも同じ温度とは限りません。

扉の近く。

庫内の奥。

冷気の流れが強いところ。

食品がぎっしり入っているところ。

機種や構造、使い方によって環境は変わります。

特に扉を開ければ、外の暖かい空気が入ります。

閉めれば、また冷えていきます。

ただし、ここでも、

冷凍庫内の空気の温度が変わることと、コーヒー豆そのものの温度が同じだけ変わることは別です。

短時間扉を開けただけで、豆が一瞬で室温になるわけではありません。

空気と豆では、温度の変わり方が違います。

扉側より、温度変化の少ない場所

長期間保存するなら、

「一番冷たい場所はどこか」

だけでなく、

温度変化の少ない場所はどこか

という見方ができます。

一般には、扉付近は開閉時に外気の影響を受けやすくなります。

庫内の奥は、それに比べれば外気の影響を受けにくくなります。

もちろん冷凍庫の構造によって違いますから、

「必ず右奥」

などという謎の聖地を作る必要はありません。

考え方としては、

低温で、なるべく安定している場所

を選ぶ。

冷蔵でも冷凍でも、この考え方は共通しています。

冷凍保存で重要なのは、密閉

温度を下げるだけでは十分ではありません。

冷凍保存でも、空気との接触をできるだけ減らすことが重要です。

袋の口が開いている。

容器の中に大きな空間がある。

何度も開閉する。

こうした条件では、低温にしている利点とは別のところで変化が起こります。

長期間保存するなら、

低温と密閉を組み合わせる

と考えた方が分かりやすいでしょう。

「冷凍庫に入れた」という行為そのものが保存方法なのではありません。

どんな状態で入れたのかまでが保存方法です。

一袋を毎日出し入れする?

ここは冷蔵以上に考えておきたいところです。

500gの豆を一袋のまま冷凍したとします。

朝、冷凍庫から出す。

袋を開ける。

20g取る。

袋を閉じる。

また冷凍庫へ戻す。

翌日も同じことをする。

これを繰り返せば、

冷える。

取り出す。

暖まり始める。

開封する。

室内の空気に触れる。

また冷やす。

という変化を何度も繰り返します。

冷凍保存の目的が、

できるだけ低温で安定した状態を保つこと

なら、あまりきれいな使い方とは言えません。

そこで、小分けという方法が出てくる

たとえば500gを、

100gずつ。

数日分ずつ。

あるいは一回の抽出量ずつ。

分けて冷凍しておく方法があります。

そうすれば、今日使う分だけ取り出せます。

残りは冷凍庫の中に置いたままです。

保存している豆全部を毎回暖めたり、外気に触れさせたりする必要がありません。

ここで重要なのは、

「小分けすると鮮度が上がる」

わけではないことです。

小分けの目的は、

保存している豆を何度も出し入れしなくて済むようにすること

です。

目的が分かれば、どのくらい細かく分けるべきかも考えやすくなります。

一杯分ずつ分ければ、一番いい?

それなら極端に、

「全部一杯分ずつ分ければいい」

となりそうです。

保存だけを考えれば合理的な面があります。

でも容器や袋が大量に必要になります。

分ける手間もかかります。

保存場所も使います。

そして、一週間程度で飲み切る豆にそこまで必要なのか、という問題もあります。

ここでも、

細かく管理すればするほど良い

とは限りません。

一週間分。

100gずつ。

一杯分ずつ。

必要な解像度は、保存期間や使い方によって変わります。

前に出てきた「基準の解像度」と同じ話が、冷凍庫の中にまで追いかけてきます。

結露はどう考える?

冷凍保存で特によく心配されるのが結露です。

冷たい豆を暖かく湿った空気に触れさせれば、条件によっては表面などに水分が生じる可能性があります。

だから、

冷凍庫から出した豆をどう扱うか

が重要になります。

ここで一つ区別しておきたいことがあります。

密閉された容器を冷凍庫から出す。

そのまま室温に戻す。

室温に近づいてから開封する。

この場合、暖かく湿った室内の空気が、冷たい豆に直接触れるのを抑えられます。

一方、

冷凍庫から出してすぐ袋を開ける。

必要な分を取り出す。

また閉じる。

では条件が違います。

同じ「冷凍保存」でも、取り出し方によって豆が経験する環境は違います。

では、必ず常温に戻してから挽く?

ここが少し面白いところです。

「結露を防ぐなら、必ず常温に戻してから挽く」

と考えたくなります。

しかし、コーヒー豆は低温のまま挽くこともできます。

実際、冷えた豆をそのままグラインダーに入れて挽く方法もあります。

低温の豆を挽くことで、粉砕後の粒度分布などに違いが出ることも研究されています。

ですから、

冷凍した豆は必ず解凍してから挽かなければならない

とは言えません。

ただし、

一杯分だけ密閉して冷凍して、そのまま使う。

大袋を冷凍して、毎回開けて一部だけ使い、残りを戻す。

この二つは別の話です。

前者なら、残りの豆を何度も外気にさらす問題がありません。

後者では、保存している豆全体の扱いまで考える必要があります。

冷凍したら、いつまでも新鮮?

もちろん、そんな便利な永久保存装置ではありません。

冷凍しても変化が完全に止まるわけではありません。

包装状態も関係します。

温度も一定とは限りません。

開閉や出し入れもあります。

そして家庭用冷凍庫は、長期保存専用の研究設備ではありません。

だから、

「冷凍なら○年間まったく変わらない」

のように考えるのではなく、

常温より変化を遅らせるための方法

として考える方がいいでしょう。

では、どんなときに冷凍する意味がある?

たとえば、

すぐには飲み切れない量を買った。

複数のコーヒーを少しずつ飲みたい。

気に入った豆を長めに残しておきたい。

焙煎後のある時点の状態を、できるだけ長く保ちたい。

こうした場合には、冷凍保存を考える意味があります。

反対に、

買った豆を短期間で飲み切る。

保存環境もそれほど高温ではない。

という場合に、必ず冷凍しなければならない理由はありません。

冷凍は、

すべてのコーヒーに必要な儀式ではなく、保存期間を延ばしたいときに使える手段

です。

冷凍するなら、いつ冷凍する?

ここでもう一つ疑問が出ます。

焙煎したその日に冷凍するのか。

数日置いてからなのか。

飲み頃になってからなのか。

これも、

「冷凍するなら焙煎後○日」

という一つの数字だけでは決めにくい問題です。

冷凍によって保存中の変化を遅らせるなら、

どの状態の変化を遅らせたいのか

を考える必要があります。

焙煎直後の状態を保ちたいのか。

ある程度ガスが抜けた状態を保ちたいのか。

自分が好ましいと感じた状態を長く残したいのか。

目的によって、冷凍するタイミングの考え方も変わります。

これはなかなか重要です。

冷凍保存を考えると、つい「何日保存できるか」ばかりに目が行きます。

でもその前に、

何日目の状態を保存したいのか

という問題があります。

冷凍庫は、時間を止める装置ではない

コーヒー豆を冷凍する意味はあります。

低温にすることで、保存中のさまざまな変化を遅らせることができます。

でも、それだけで保存方法が完成するわけではありません。

どこに置くのか。

どのくらい温度が変化するのか。

どのように密閉するのか。

どのくらいに小分けするのか。

何回出し入れするのか。

どの状態で冷凍するのか。

どうやって取り出すのか。

同じ「冷凍保存」でも、条件はかなり違います。

だから、

「冷凍したかどうか」より、「どんな状態を、どんな条件で保存したか」

を見る。

そうすると、

「常温か、冷蔵か、冷凍か」

という三択だった保存の話が、

どのくらいの期間、何を守りたいのか。そのためにどの条件を管理するのか

という話に変わってきます。