注ぎ方を変えると、何が変わる?

ハンドドリップには、さまざまな注ぎ方があります。

細く注ぐ。

太く注ぐ。

何回かに分ける。

中心だけに注ぐ。

外側まで注ぐ。

高い位置から注ぐ。

低い位置から注ぐ。

一定の水位を保つ。

いったん湯を落としてから次を注ぐ。

そして、それぞれの方法に名前がつくこともあります。

名前がつくと、それ自体に何か特別な力があるように見えてきます。

でも抽出という現象から考えるなら、

注ぎ方は、水をコーヒーへどう与えるかを変える操作

です。

では、注ぎ方を変えると、実際には何が変わるのでしょうか。

同じ250gでも、同じ抽出とは限らない

コーヒー15g。

お湯250g。

温度90℃。

挽き目も同じ。

ここまでそろえたとします。

一方は、250gを比較的連続して注ぐ。

もう一方は、50gずつ何回かに分けて注ぐ。

総湯量は同じです。

でも、粉が経験した状態まで同じとは限りません。

違う可能性があるのは、

水位。

流れ。

粉と水の接触。

攪拌。

温度。

新しい水が入ってくるタイミング。

抽出時間。

などです。

つまり、

「250g注いだ」は同じでも、「250gをどう使ったか」が違います。

注ぐ速さを変える

まず分かりやすいのが、注ぐ速さです。

1秒間に何gの湯を入れるか。

これを変えれば、一定時間にドリッパーへ入る水量が変わります。

たとえば、粉の層から液体が出ていく速度より速く注げば、水位は上がる方向へ進みます。

反対に、入ってくる水が少なければ、水位は低くなりやすくなります。

つまり注湯速度を変えると、

単に「早く淹れる・ゆっくり淹れる」だけではなく、

粉の層にどのくらいの水が存在するか

も変わる可能性があります。

水位が変わる

ドリッパーの中を見ると、粉の上に水がたくさんあるときもあれば、ほとんど見えないときもあります。

この水位も、抽出条件の一つとして考えられます。

水位が変われば、

粉の層にかかる水の状態。

液体の流れ。

粉の動き。

なども変わる可能性があります。

ただし、

「水位が高いほど○○味になる」

と一つの答えへ固定するのは早すぎます。

ドリッパー。

フィルター。

粉量。

挽き目。

粒度分布。

注湯速度。

などが一緒に関係するからです。

まずは、

水位も変わっている

と認識しておけば十分です。

注ぐと、粉も動く

水を注げば、粉の層へ力が加わります。

液体が動きます。

粉も動くことがあります。

こうした動きを、抽出では攪拌として考えることがあります。

攪拌が起これば、

粉の周囲にある液体が入れ替わる。

粉と水の接触状態が変わる。

粒子が移動する。

といったことが起こり得ます。

つまり注湯は、

水を追加する操作であると同時に、粉と液体を動かす操作

でもあります。

攪拌すれば、よく抽出できる?

粉と水の接触や液体の入れ替わりを促すことで、抽出が進みやすくなる場合があります。

だから、

「攪拌すると抽出が進む」

という説明には意味があります。

ただし、

攪拌が多いほど良い

とは限りません。

粉が動けば、粉の配置も変わります。

細かな粒子が移動することもあります。

粉の層の通水性が変われば、その後の流れも変わる可能性があります。

つまり攪拌は、

成分の移動だけではなく、

その後の抽出条件そのものを変えることがあります。

微粉の「量」は変わらなくても

ここはグラインダー編とつながります。

同じコーヒーを同じグラインダーで挽いたなら、注ぎ方を変えても最初に存在した微粉の量は基本的に同じです。

でも、

微粉がどこにあるか

は変わる可能性があります。

注湯や攪拌によって粒子が移動する。

フィルター付近へ細かな粒子が集まる。

粉の層の中で配置が変わる。

すると、通水性が変化する可能性があります。

だから、

「同じ粉を使った」

だけでは、その後の粉床の状態まで同じとは限りません。

量と配置は別の情報です。

流れは、すべて同じ場所を通るわけではない

理想化すれば、

上から入った水が粉の層全体を均等に通り、すべての粉から同じように成分を取り出してくれる。

そう考えたくなります。

実際には、粉の層は完全に均一ではありません。

粒の大きさも違います。

配置も違います。

水の通りやすい場所と、通りにくい場所ができる可能性があります。

そのため、

同じ量の水を注いでも、すべての粉が同じように水と接触するとは限りません。

ここから、チャネリングという考え方も出てきます。

チャネリングとは何か

水が粉の層を均一に通らず、特定の通りやすい経路へ偏って流れる状態を、チャネリングと呼ぶことがあります。

もし一部へ多くの水が通れば、

よく水と接触する場所。

あまり水と接触しない場所。

ができます。

すると、一杯全体の抽出率だけでは見えないばらつきが生まれる可能性があります。

ただし、

抽出が速い=チャネリング。

味が悪い=チャネリング。

という意味ではありません。

チャネリングは、あくまで水の流れが偏っているという現象についての説明です。

味との関係は、その次に考えます。

注ぐ場所を変える

中心へ注ぐ。

外側まで注ぐ。

円を描く。

一点へ注ぐ。

これらも、水が粉の層へ入る場所を変える操作です。

当然、

どこへ水が入るか。

どこが動くか。

どこへ新しい水が供給されるか。

が変わる可能性があります。

ただし、

「中心だけならこういう味」

「外まで注げばこういう味」

と、注ぐ場所だけから味を決めることはできません。

粉の層の中では水が移動します。

ドリッパーの構造も関係します。

フィルターと粉の接触状態もあります。

注いだ場所と、水が最終的に通った場所は同じとは限りません。

外側に注いではいけない?

「ペーパーフィルターに直接お湯をかけてはいけない」

という説明もあります。

ここも、禁止事項として覚えるより、何が起きるかを考えた方が使えます。

粉へ入る水。

粉とフィルターの間を通る水。

フィルターへ直接当たる水。

それぞれが最終的にどう流れるかは、器具や粉床の状態によって変わります。

もしコーヒー粉と十分に接触せずに液体が抜ける割合が増えれば、抽出への関わり方も変わります。

だから問題は、

「外側へ注いだか」ではなく、その水がコーヒーとどう接触したか

です。

高いところから注ぐと何が変わる?

ケトルを高く持ち上げて注ぐ。

低い位置から注ぐ。

高さを変えると、湯が粉の層へ到達するときの状態も変わります。

ただし高さだけを見ても不十分です。

流量。

湯の太さ。

ケトルの注ぎ口。

落下中の湯のまとまり方。

着水位置。

なども関係します。

高くしたから必ず強い攪拌になる、と単純には決められません。

ここでも、

高さという設定値と、実際に粉床へどんな作用が加わったか

を分けます。

分けて注ぐと、何が変わる?

250gを一度に近い形で注ぐ。

50gずつ5回に分ける。

この違いを「5投」「1投」と呼ぶこともあります。

でも重要なのは名前ではありません。

分けて注げば、

注湯を止める時間ができます。

その間にも液体は流れます。

水位が下がります。

温度も変化します。

粉の層の状態も変わります。

そして次の注湯で、新しい水と熱が入ります。

つまり、

注ぐ回数を変えることは、抽出中の水・流れ・温度・攪拌の時間変化を変えること

でもあります。

「何投が正解?」という問題

一投。

三投。

五投。

どれが正しいのでしょう。

それだけでは決められません。

同じ三投でも、

50g、100g、100g。

80g、80g、90g。

注湯間隔10秒。

30秒。

完全に落ちてから次。

では、条件が違います。

「三投」という分類だけでは、抽出を十分に説明できません。

これは、

「中挽き」

「90℃」

「3分」

と同じです。

便利な言葉ですが、その中にはまだ違いがあります。

蒸らしの注ぎ方も、抽出の一部

最初に少量の湯を注ぎ、

30秒待つ。

いわゆる蒸らしです。

このときも、

何g注いだか。

どこへ注いだか。

どのくらい粉が濡れたか。

攪拌したか。

温度はどう変わったか。

によって状態は変わります。

そして前の記事で見たように、その30秒にも抽出は進んでいます。

だから蒸らしは、

本番前の準備時間ではなく、抽出の最初の工程

として見ることができます。

注ぎ方を変えたら、時間も変わった

ここで前の記事ともつながります。

注ぎ方を変えた。

すると抽出時間が変わった。

このとき、

「時間が変わったから味が変わった」

だけでは説明が足りません。

操作したのは注ぎ方です。

そこから、

注湯速度が変わった。

水位が変わった。

攪拌が変わった。

粉床が変わった。

流れが変わった。

温度履歴が変わった。

その結果として、総抽出時間も変わった。

という可能性があります。

つまり、

時間は原因である場合もあれば、別の変化によって現れた結果である場合もあります。

同じ時間にそろえれば、同じ抽出?

二つの注ぎ方を比べて、どちらも3分で終わるように調整したとします。

それでも、

水位。

流れ。

攪拌。

温度履歴。

粉の移動。

水が粉と接触した状態。

まで同じとは限りません。

だから、

終了時間をそろえることは、条件の一つをそろえたこと

です。

抽出全体を同じにしたことではありません。

注ぎ方を比較するなら

注ぎ方Aと注ぎ方Bを比べたい。

そのとき、最初から全部測る必要はありません。

まず、

豆。

粉量。

挽き目。

湯量。

湯温。

器具。

などをできる範囲でそろえる。

注ぎ方を変える。

そして、

抽出時間。

出来上がり量。

味。

を見る。

必要ならTDSも測る。

それでも違いの理由が分からなければ、

水位。

各注湯の時間。

流量。

温度変化。

などを見る項目を増やす。

さらに必要なら、その測定の解像度を上げる。

以前整理した、

項目を増やすことと、解像度を上げることは別

という話がここでも使えます。

レシピに注ぎ方を書く理由

「0:00 50g」

「0:30 120g」

「1:00 180g」

「1:30 250g」

というように、レシピへ注湯のタイミングと量を書くことがあります。

これは儀式の手順書ではありません。

そのレシピで行っていた、

水をいつ、どのくらい与えたか

を共有するための記録です。

数字があることで、

昨日と今日。

自分とスタッフ。

店と別の場所。

で比較しやすくなります。

ただし、同じ数字をなぞったからといって完全に同じ注湯になるわけではありません。

注ぐ速度や位置、器具、粉の状態などが残っています。

レシピは現象そのものではなく、

現象を再現しやすくするための記述

です。

上手な注ぎ方って何だろう

「ドリップが上手」というと、

細い湯をきれいに注げる。

一定の円を描ける。

決められた時間通りに注げる。

といった技術を想像することがあります。

それらが役立つ場面はあります。

でも抽出という目的から考えれば、

上手さを別の見方もできます。

自分が変えたい条件を、狙って変えられること。

そして、

その結果を見て、次の操作を決められること。

細く注ぐこと自体が目的ではありません。

同じ動作を美しく繰り返す競技でもありません。コーヒーは、こちらの所作の美しさを採点してくれないので。

注ぎ方を変えると、何が変わる?

注ぎ方を変えると、

水が入る速さ。

水位。

水の流れ。

攪拌。

粉の配置。

温度の変化。

新しい水が入るタイミング。

抽出時間。

などが変わる可能性があります。

つまり注ぎ方は、

一つの変数ではありません。

複数の抽出条件をまとめて動かす操作です。

だから、

「この注ぎ方だからおいしい」

で終わらせず、

その注ぎ方によって、何を変えているのか

を見る。

そうすると、有名なレシピをそのまま覚えるだけではなく、そのレシピが何をしているのかを考えられるようになります。

そして、自分のコーヒーや器具で結果が違ったときにも、調整できます。

レシピを守るところから、

レシピを読めるところへ。