スペシャルティコーヒーって、どうやって生まれたの?
コーヒーを選んでいると、「スペシャルティコーヒー」という言葉を見かけることがあります。
なんとなく、
「品質の高いコーヒー」
「高級なコーヒー」
「点数の高いコーヒー」
というイメージを持っている人もいるかもしれません。
実際、長い間スペシャルティコーヒーは、コーヒーの品質を評価し、より良いものを見つける仕組みと強く結びついてきました。
ただ、この言葉が指しているものは、ずっと同じだったわけではありません。
「スペシャルティ」という考え方
スペシャルティコーヒーという言葉の歴史をたどると、1970年代までさかのぼります。
当時のコーヒーは、大量に流通する商品として扱われることが中心でした。
しかし当然、すべてのコーヒーが同じではありません。
どこで育ったのか。
どんな品種なのか。
どのように収穫され、精製されたのか。
そうした違いによって、特徴のあるコーヒーもあります。
コーヒーを単なる大量生産の商品としてではなく、産地や品質、特徴の違いを持ったものとして扱おう。
そのような考え方が、スペシャルティコーヒーという言葉とともに広がっていきました。
コーヒーを評価する仕組みが作られた
1982年には、アメリカでSCAA(Specialty Coffee Association of America)が設立されました。
その後1998年には、ヨーロッパでSCAE(Specialty Coffee Association of Europe)が設立されます。
こうした団体では、コーヒーの品質を評価する方法や、カッピング、教育などの仕組みが整えられていきました。
評価されるのは、飲んだときの味や香りだけではありません。
生豆については、欠点豆がどのくらい含まれているか、豆の大きさや状態はどうかといった物理的な評価も行われます。
欠点豆は、英語では「Green Coffee Defects」などと呼ばれます。虫害を受けた豆、黒く変色した豆、異物など、生豆の状態を一定の基準で確認し、分類します。
そして実際にコーヒーを抽出し、香りや風味、酸味、甘さ、後味などを確認するのがカッピングです。
生豆の状態を見ることと、飲んだときにどう感じるかを見ること。その両方からコーヒーの品質を考えてきました。
その中で大きな役割を持つようになったのが、コーヒーを点数で評価する方法です。
香り。
風味。
酸味。
甘さ。
後味。
さまざまな項目を評価し、コーヒーを比較する。
100点満点で評価する方法が広く使われるようになり、80点以上という数字が「スペシャルティコーヒー」を考える一つの境界として知られるようになりました。
そのため、
「80点以上ならスペシャルティコーヒー」
と説明されることも多くなりました。
点数があることで、見えるようになったもの
点数をつけることには、大きな意味がありました。
たとえば生産者と買い手が、まったく違う基準でコーヒーを見ていたら、品質について話すことは簡単ではありません。
共通の評価方法があれば、
このコーヒーにはどんな特徴があるのか。
どのくらいの品質なのか。
前年のものとどう違うのか。
比較しやすくなります。
品質の高いコーヒーを見つけ、それを生産した人に価値を返していくためにも、評価の仕組みは重要でした。
点数は、違いを見つけ、共有するための共通のものさしになったのです。
SCAAとSCAEが一つになった
2017年、アメリカのSCAAとヨーロッパのSCAEは統合されました。
現在のSCA(Specialty Coffee Association)です。
それまでアメリカとヨーロッパで発展してきた教育や評価、研究などが、一つの国際的な組織の中で扱われるようになりました。
ただし、組織が一つになったからといって、「スペシャルティコーヒーとは何か」という問いまで完全に決着したわけではありません。
むしろ、その後も考え方は変化していきます。
80点あれば、それだけで十分なのか
点数は便利です。
しかし、数字だけでコーヒーの価値をすべて表せるのでしょうか。
同じ85点でも、同じ味ではありません。
華やかな香りを高く評価する人もいれば、甘さや口当たりを重視する人もいます。
ある市場で非常に高く評価される特徴が、別の市場でも同じように評価されるとは限りません。
さらにコーヒーには、カップの中だけでは分からないこともあります。
どこで作られたのか。
誰が作ったのか。
どのように精製されたのか。
どのような環境で生産されたのか。
コーヒーの価値を考えるとき、味の点数だけでは捉えきれないものがあります。
評価方法も変わり始めた
CVAでは、コーヒーを大きく4つの方向から見ます。
まず、生豆の色、欠点、含水率、豆の大きさなど、生豆そのものがどのような状態なのかを見る「物理的評価」。
次に実際にカッピングして、香り、風味、口当たり、後味など、どのような特徴を感じたのかを記録する「記述的評価」。
さらに、そのコーヒーを飲んだ人が、その特徴をどのくらい好ましいと評価したのかを見る「嗜好的評価」。
そして、産地、生産者、精製方法、認証など、飲んだだけでは分からない情報を記録する「外在的評価」です。
ここで面白いのは、
「何を感じたか」
と
「それを良いと思ったか」
を分けて考えていることです。
たとえば、二人が同じように強い発酵由来の香りを感じたとしても、それを魅力的だと思う人もいれば、好まない人もいます。
感じた特徴が同じでも、その評価まで同じになるとは限りません。
カッピングも、単に「おいしい・おいしくない」を決めるためだけのものではありません。
コーヒーの特徴を観察し、記録し、ほかのコーヒーと比較し、その違いを人と共有するためにも使われます。
生豆そのものにも評価がある
コーヒーの評価というと、飲んで点数をつける場面を思い浮かべるかもしれません。
しかし、その前の生豆にも評価があります。
生豆の中には、虫害を受けた豆、黒く変色した豆、未成熟な豆など、さまざまな状態の豆が混ざることがあります。また、豆以外の異物が混入することもあります。
こうしたものは、Green Coffee Defects、つまり生豆の欠点として分類されます。
従来のSCAの生豆評価では、こうした欠点の種類や数などを確認する「グリーングレーディング」が行われてきました。
現在のCVAでも、生豆の欠点だけでなく、色、含水率、豆の大きさなどを確認する物理的評価があります。
つまり、コーヒーを見るときには、
「飲んだらどう感じるか」
だけではなく、
「そもそも、どのような状態の生豆なのか」
という別の観察があります。
この二つは関係していますが、同じ評価ではありません。
味だけで、コーヒーの価値は決まる?
さらに、コーヒーには飲んだだけでは分からないことがあります。
どこの国の、どの地域で作られたのか。
誰が生産したのか。
どんな品種なのか。
どのように収穫し、精製したのか。
そして、生産されたコーヒーが、どのような経路を通って私たちのところまで届いたのか。
どこで、誰が、どのように作り、どうやってここまで届いたのかをたどれること。
これを「トレーサビリティ」と呼びます。
さらに、そのコーヒーをこれからも作り続けていくことを考えれば、別の問題も出てきます。
生産する人が仕事を続けられること。
生産に見合った対価を得られること。
農園やその周囲の環境に無理をかけ続けないこと。
そして、その土地で将来もコーヒーを生産していけること。
こうした、コーヒーの生産や流通を、この先も続けていける状態を考えることを「サステナビリティ」と呼びます。
もちろん、
「産地が細かく分かるから、おいしい」
「環境に配慮しているから、おいしい」
ということではありません。
味の特徴と、生産や流通に関する情報は、いったん分けて考える必要があります。
一方で、「このコーヒーにはどんな価値があるのか」を考えるなら、カップの中だけを見ていれば十分とも言えません。
現在のSCAが、スペシャルティコーヒーを一つの点数だけで捉えなくなってきた背景には、こうした考え方の広がりもあります。
では、今のスペシャルティコーヒーとは?
現在SCAは、スペシャルティコーヒーを、単に「80点以上のコーヒー」とは説明していません。
そのコーヒーやコーヒー体験に特徴的なものが認められ、それによって市場で通常より大きな価値を持つもの、と捉えています。
その特徴は、味や香りかもしれません。
産地や生産者かもしれません。
生産方法や、その背景にある取り組みかもしれません。
そして、何に価値を感じるかは、人や市場によって同じとは限りません。
これは、以前の評価方法が間違っていたということではありません。
点数による評価があったからこそ、見つけられた品質や共有できた違いがあります。
一方で、その方法を長く使ってきたからこそ、点数だけでは十分に表せないものも見えてきました。
評価する仕組みそのものも、コーヒーについて分かってきたことや、時代、市場の変化に合わせて更新されているのです。
スペシャルティだけで、コーヒーの世界はできている?
スペシャルティコーヒーについて考えるとき、もう一つ忘れたくないものがあります。
それは、一般に「コモディティコーヒー」と呼ばれる、大量に生産され、広く流通しているコーヒーです。
スペシャルティコーヒーは、何もないところから突然生まれたわけではありません。
多くのコーヒーが商品として世界中で流通する中で、
「このコーヒーは、ほかと何が違うのだろう」
「産地や生産者、品質の違いを、もっときちんと見られないだろうか」
と考えるところから、スペシャルティという考え方は発展してきました。
そう考えると、スペシャルティとコモディティを、単純に「良いコーヒー」と「悪いコーヒー」に分けることには少し無理があります。
大量に安定して供給できること。
多くの人が日常的に飲める価格であること。
求められる品質を一定に保つこと。
それも、コーヒーに求められる価値の一つです。
一方で、一つひとつの産地や生産者、風味などの違いに注目し、その違いに価値を見つけようとしてきたのが、スペシャルティコーヒーの一つの側面です。
どちらかが存在すれば、もう一方が必要なくなる、という関係ではありません。
むしろ、広く流通するコーヒーがあるからこそ、個々のコーヒーの違いに注目する「スペシャルティ」という考え方にも意味が生まれた、とチバコーヒーでは考えています。
「スペシャルティ」は、固定された言葉ではない
スペシャルティコーヒーという言葉を見ると、何か明確な規格があり、そこから先がスペシャルティ、そこから下は違うもの、と考えたくなります。
境界がある方が分かりやすいからです。
けれど、その言葉が生まれてから現在までを見てみると、考え方も評価方法も変化しています。
品質を見つけるために基準を作る。
基準を使って、多くのコーヒーを見る。
すると、その基準だけでは見えないものに気づく。
そして、また評価の仕方を考える。
スペシャルティコーヒーの歴史そのものが、その繰り返しなのかもしれません。
では、日本で使われている「スペシャルティコーヒー」と、海外で使われている「スペシャルティコーヒー」は、同じものなのでしょうか。
次は、その違いを見ていきます。