コーヒー豆を買うとき、
「豆のままにしますか、粉にしますか?」
と聞かれることがあります。
家にミルがなければ、粉にしてもらう。
飲む直前に挽きたいなら、豆のまま買う。
使い方の違いですが、保存という点でも大きな違いがあります。
一般には、
コーヒーは豆のままの方が、粉にした状態より変化がゆっくりです。
では、なぜ挽くだけで違いが生まれるのでしょう。
よくある答えは、
「表面積が増えるから」
です。
間違いではありません。
ただ、それだけでは何が起きているのか、いまひとつ見えてきません。
今回は「挽く」という操作によって、コーヒーの何が変わるのかを考えてみます。
豆の中と外では、条件が違う
焙煎したコーヒー豆を一粒見てみます。
外側は空気に触れています。
でも、豆の内部まで同じように空気に触れているわけではありません。
香りに関係する成分やガスなども、豆の内部に存在しています。
もちろん豆は完全な密閉容器ではありません。
内部から外へガスや香りに関係する成分は移動していきます。
それでも、
豆の内部と、外気に直接触れている表面では条件が違います。
ところが、豆を挽くと状況が大きく変わります。
挽くと、「中だったところ」が外になる
一粒の豆を細かく砕く。
すると、それまで豆の内部だった部分が表面に現れます。
一つの大きな塊だったものが、多数の小さな粒になります。
その結果、空気に触れる面積が大きく増えます。
これが、
「粉にすると表面積が増える」
という話です。
ただし重要なのは、表面積という数字そのものではありません。
表面積が増えることで、
豆と周囲の環境が接触できる場所が増える
ことです。
空気との接触。
香りに関係する成分の移動。
水分の移動。
さまざまな変化が起こりやすい条件になります。
挽いた瞬間に香りが強くなるのはなぜ?
豆を挽くと、急にコーヒーの香りが強くなります。
これはコーヒーを淹れる楽しみの一つです。
でも、保存という視点から見ると少し違う意味もあります。
豆の内部にあった香りに関係する成分が、粉砕によって外へ出やすくなります。
そして空気中へ移動した成分が鼻に届く。
だから香ります。
つまり、
挽いたときに香りが強くなることと、香りに関係する成分が豆から出ていくことは、同じ現象の別の側面でもあります。
いい香りがする。
人間としては喜ばしい。
保存する側から見ると、その香りの一部はすでにコーヒーから離れています。
香りを感じながら保存もしたいという、人間の要求は相変わらず都合よくできています。
ガスも抜けやすくなる
焙煎したコーヒー豆には、二酸化炭素などのガスが残っています。
豆の状態でも、ガスは少しずつ外へ出ていきます。
ところが粉にすると、豆の内部まで細かく分断されます。
ガスが外へ出るまでの距離も短くなります。
そのため、挽いた後はガスの放出も速く進みます。
だから、
焙煎してから何日たったか。
だけではなく、
挽いてからどのくらいたったか
も状態を見るための情報になります。
酸素との接触も増える
表面積が増えれば、空気中の酸素と接触できる場所も増えます。
前の記事で見たように、焙煎豆に含まれる成分の一部は酸素の影響を受けて変化します。
豆のままなら、内部にある部分は外気と直接接触しにくい。
粉にすると、その内部だった部分まで空気にさらされます。
そのため、
粉にした状態では、酸素が関係する変化も進みやすくなります。
ここでも「粉は酸化するからダメ」と一言で終わらせるより、
「空気と接触できる場所が増えた」
と考える方が、その後の保存方法まで考えやすくなります。
水分の影響も受けやすくなる
粉にすると、周囲の空気との接触が増えるのですから、水分との関係も変わります。
空気には水蒸気が含まれています。
湿度によって、その状態も違います。
細かく挽かれたコーヒーは、豆の状態より周囲の環境の影響を受けやすくなります。
だから粉の保存では、
密閉。
湿度。
開封回数。
といった条件の意味がさらに大きくなります。
粗挽きと細挽きでも違う?
ここまで来ると、
「では、細挽きほど変化が速いのか」
という疑問が出てきます。
考え方としては、粒を細かくするほど全体の表面積は大きくなります。
ですから、周囲の環境との接触という点では違いが生まれます。
ただし、家庭での保存について、
「粗挽きなら何日、細挽きなら何日」
と単純な期限を決めるところまではいきません。
粒度以外にも、
包装。
温度。
酸素。
湿度。
開封回数。
保存期間。
などが関係するからです。
大切なのは、
「粉」という一種類の状態があるわけではない
ということです。
挽き方が変われば、粉の状態も変わります。
粉にしたら、すぐダメになる?
ここは誤解しやすいところです。
粉にすると変化が速くなる。
だからといって、
挽いた瞬間においしくなくなる
わけではありません。
店で挽いてもらったコーヒーでも、適切に保存して楽しむことはできます。
大事なのは、
「豆でなければダメ」
という優劣の話にしないことです。
家にミルがない。
朝はなるべく簡単に淹れたい。
職場で使う。
一度に必要な量を準備しておきたい。
粉で買うことには、粉で買う理由があります。
保存性は、コーヒーの使いやすさを決める条件の一つにすぎません。
「豆の方がおいしい」でもない
豆のまま保存した方が変化がゆっくりだから、
「豆で買えばおいしい」
とまで言えるでしょうか。
これも一段飛ばしています。
豆で買っても、飲むときには挽かなければなりません。
そのとき使うミルによって、挽いた粉の状態は変わります。
粒の大きさ。
粒のそろい方。
細かな粉の量。
これらは抽出にも影響します。
たとえば店に性能のよいグラインダーがあり、家庭では簡単なミルを使っている場合、
保存性では豆のままが有利でも、粉砕の状態では店で挽いた方が目的に合う
ということもあり得ます。
保存という一項目だけで、最終的な一杯の良し悪しまでは決まりません。
何を優先するか
ここで、豆か粉かという質問が少し変わってきます。
「どちらが正しい?」
ではなく、
「何を優先したい?」
です。
時間による変化をできるだけ遅くしたいなら、豆のまま保存して飲む直前に挽くことには意味があります。
手軽さを優先するなら、あらかじめ粉にしておく方法があります。
店のグラインダーで挽いた状態を使いたいなら、それも一つの選択です。
短期間で使い切るなら、豆と粉の保存性の違いが実際の使い方でどの程度重要なのかも考えられます。
保存性だけを最大にすることが、コーヒーを飲む目的ではありません。
粉で保存するなら、何を見る?
粉の状態で保存するなら、変化しやすいことを前提に考えます。
たとえば、
必要以上に長期間保存しない。
しっかり密閉する。
高温になる場所を避ける。
湿気の影響を受けにくくする。
必要以上に何度も容器を開けない。
こうした方法があります。
つまり、
粉だから保存できないのではなく、粉になったことで変化しやすくなった条件に対応する
ということです。
冷凍すれば、粉でも同じ?
前の記事の冷凍保存ともつながります。
粉を低温で保存すれば、保存中の一部の変化を遅らせることはできます。
では、粉を冷凍すれば豆と同じになるのでしょうか。
そう単純でもありません。
「豆か粉か」は粒の状態の違いです。
「常温か冷凍か」は保存温度の違いです。
別々の項目です。
粉にしたことによって表面積が増えたという事実は、冷凍してもなくなりません。
ただ、低温にすることで、その状態で起きる変化を遅らせることはできます。
つまり、
一つの条件を改善したからといって、ほかの条件の違いまで消えるわけではありません。
豆のままと粉、どちらが長持ちする?
保存中の変化という点では、
豆のままの方が、粉にした状態より変化はゆっくりです。
理由は単に、
「豆の方が新鮮だから」
ではありません。
豆を挽くことで、それまで内部だった部分が表面に現れる。
表面積が増える。
香りに関係する成分やガスが外へ移動しやすくなる。
酸素や周囲の水分とも接触しやすくなる。
つまり、
「挽く」という操作そのものが、コーヒーと周囲の環境との関係を変えている
わけです。
だから豆と粉を比べるときも、
「豆が正解、粉が間違い」
ではなく、
何を保ちたいのか。どのくらい保存するのか。そして、どう使うのか。
まで考える。
保存性を優先するなら豆のまま。
使いやすさを優先して粉にするなら、その状態に合った保存をする。
違いが分かれば、選び方も変わります。