コーヒーの淹れ方を見ると、
「もう少し細かく挽いてください」
「抽出が遅ければ粗くしてください」
といった説明がよく出てきます。
では、豆を粗く挽くか細かく挽くかで、実際には何が変わっているのでしょう。
よくある説明は、
細挽きは濃く出て、粗挽きは薄く出る。
確かに、そうなることはあります。
でも、それだけではありません。
挽き目を変えると、
水と接触する面積。
粒の内部までの距離。
成分が水へ移る速さ。
水の流れ。
抽出にかかる時間。
など、いくつもの条件が変わる可能性があります。
つまり、
挽き目は一つの項目ですが、動かした結果は一つとは限りません。
まず、粒の大きさが変わる
当たり前のところから始めます。
粗挽きにすれば、一つ一つの粒は比較的大きくなります。
細挽きにすれば、小さな粒が増えます。
同じ20gのコーヒーでも、大きな粒の集まりと、小さな粒の集まりでは状態が違います。
細かくするほど、全体として水に触れる表面積は大きくなります。
さらに、粒の表面から中心までの距離も短くなります。
そのため一般には、
細かな粒ほど、成分を水へ取り出しやすい条件になります。
「取り出しやすい」と「たくさん出た」は違う
ここは少し分けておきましょう。
細かく挽けば、成分が水へ移動しやすくなります。
でも、
細かく挽いた=必ずたくさん抽出された
とまでは言えません。
抽出にはほかにも、
湯温。
時間。
湯量。
豆の量。
攪拌。
抽出方法。
などが関係します。
細かく挽いても、ほかの条件が変われば結果は変わります。
挽き目は、抽出を決める条件の一つです。
細かくすると、抽出は速く進みやすい
同じ条件で比較するなら、細かな粉の方が成分を取り出しやすくなります。
これは「抽出の速度」の話です。
たとえば粗い粉と細かい粉を、同じ温度の水に同じ時間浸したとします。
細かな粉では、水と接触する面積が大きく、粒の内部までの距離も短いため、抽出が進みやすくなります。
だから挽き目は、
限られた時間の中で、どのくらい抽出を進めるか
を調整する手段になります。
フレンチプレスなど、粉を水に浸して抽出する方法では、この関係を比較的考えやすいでしょう。
ドリップでは、もう一つの変化が起こる
ところがドリップでは、粉は水に浸かっているだけではありません。
注いだ湯が、コーヒー粉の層を通り抜けていきます。
そのため、挽き目を変えると、
水の通り方
まで変わります。
一般には細かくすると粉の層を水が通りにくくなり、抽出時間が長くなる方向に働くことがあります。
粗くすると、水が通りやすくなり、抽出時間が短くなる方向に働くことがあります。
つまり細かくしたときには、
成分が取り出されやすくなる。
さらに水が通る時間も長くなる。
という二つの変化が同時に起こることがあります。
SCAの教育内容でも、粒度分布と抽出への影響、抽出時間などは互いに関係する要素として扱われています。SCA Education
だから「挽き目だけ変えた」が難しい
ここはコーヒーの比較で、とても重要です。
昨日より細かく挽いた。
ほかは全部同じにした。
だから、
「挽き目だけを変えた実験」
をしたつもりになる。
でもドリップで、
昨日は2分30秒。
今日は3分10秒。
になったとします。
操作したのは挽き目だけです。
しかし実際にコーヒーが経験した条件を見ると、
粒度も変わり、抽出時間も変わっています。
「自分が変更した項目」と、
「その変更によって結果として変わった項目」は、
同じではありません。
エスプレッソなら、もっと分かりやすい
エスプレッソでは、この関係がさらに分かりやすくなります。
細かく挽いた粉を詰めれば、水に対する抵抗が変わります。
流量も変わります。
抽出時間も変わります。
そして最終的な濃度や抽出にも影響します。
実際、粉の状態や粒度分布の違いがエスプレッソの流れやTDSに影響することも研究されています。Specialty Coffee Association
だからエスプレッソで、
「30秒に合わせるために挽き目を調整する」
ということがあります。
ここでは挽き目そのものが目的なのではありません。
挽き目を使って、水の流れや抽出条件を調整している
わけです。
では、細挽きほど「濃い」?
ここで最初の話に戻ります。
細かくすると濃くなる。
これは、条件によってはそうなります。
でも「濃い」という言葉も、なかなか働き者です。
苦味が強い。
味が強い。
色が濃い。
口当たりが重い。
抽出液に含まれる溶解物の濃度が高い。
全部「濃い」と表現されることがあります。
測定するなら、抽出液中の溶解物の濃度をTDSなどで表すことができます。
ただし、
TDSが高いことと、「苦い」「強い」と感じることも同じではありません。
「細挽き=濃い」という一言では、何が変わったのかが分からないわけです。
「濃度」と「抽出量」も違う
ここも混同しやすいところです。
濃度は、
できあがった液体の中に、どのくらい溶けたものが含まれているか
を見るものです。
一方、抽出率は、
使ったコーヒーから、どのくらいの割合の成分を取り出したか
を見るものです。
似ていますが、同じではありません。
少ない液量に成分が入っていれば、濃度は高くなりやすい。
多くの湯を使えば、たくさん抽出されていても濃度は低くなることがあります。
実際の抽出研究でも、挽き目や抽出時間などを調整しながら、TDSと抽出率を分けて扱います。Specialty Coffee Association
だから、
「細挽きにしたら濃くなった」
と感じたときにも、
何が濃くなったのか
を分けて考えることができます。
細かくすればするほど、抽出は増える?
ここまでなら、
「それなら細かくすれば、もっと抽出できる」
となりそうです。
しかし、実際の抽出では単純に続かないことがあります。
特に粉の層へ水を通す抽出では、細かくすることで水の流れが悪くなったり、場所によって流れ方に差が生じたりすることがあります。
水が粉全体を均一に通るとは限りません。
通りやすいところ。
通りにくいところ。
ができれば、同じ粉の層の中でも抽出状態に差が生まれます。
つまり、
細かくすれば必ず均一にたくさん抽出できる
とは限りません。
抽出では「どのくらい取り出したか」だけでなく、「どのように水が通ったか」も関係します。抽出器具の形状だけでも水の流れや物質移動が変わり、風味に差が生じることが実験で示されています。Specialty Coffee Association
粗挽きなら、雑味が出ない?
反対に、
「粗くすれば雑味が出にくい」
という説明もあります。
これも、そのまま普遍的なルールにはできません。
粗くすれば抽出の進み方は変わります。
でも、粗くしただけで「好ましくない味だけ」が都合よく出なくなるわけではありません。
酸味。
甘さ。
苦味。
香り。
口当たり。
これらは一つのスイッチで順番に出てくるわけではありません。
粗くした結果として、自分が好ましいと感じるバランスになることはあります。
でも、
粗挽き=雑味が出ない
という性質が豆についているわけではありません。
同じ「細挽き」でも、粉は同じではない
さらにややこしい話があります。
二つのグラインダーを、同じくらいの細かさに調整したとします。
それでも、できあがる粉が同じとは限りません。
大きな粒がどのくらいあるか。
中心となる粒がどのくらいあるか。
細かな粒がどのくらいあるか。
つまり、
粒度分布が違う
可能性があります。
では、グラインダーの刃の隙間を同じにすれば、同じ大きさの粉になるのでしょうか。
これも、そう単純ではありません。
刃の隙間は、粒の大きさではない
たとえば、二つのグラインダーの刃の隙間を同じ距離にしたとします。
仮にその隙間が同じ500μmだったとしても、
「500μmの粉ができる」
という意味ではありません。
グラインダーは、豆を同じ大きさに切りそろえる道具ではないからです。
豆は刃の間で割れたり、砕かれたりしながら小さくなっていきます。
その途中で、さまざまな大きさの粒が生まれます。
そして、ある状態まで小さくなった粒が外へ排出されていきます。
つまり刃の隙間は、
出来上がる粒の大きさを直接指定している数字ではなく、粉砕が行われる条件の一つ
です。
同じ隙間でも、粉砕のされ方が違う
グラインダーが違えば、
刃の形。
刃の大きさ。
溝の形や配置。
刃が回転する速さ。
豆が刃へ入っていく方法。
豆が砕かれながら移動する経路。
粉が排出される仕組み。
などが違います。
そのため、同じ刃間隔でも、
比較的大きな粒が多くなる。
細かな粒が多くなる。
ある範囲に粒が集まりやすくなる。
という違いが生まれます。
さらに、同じグラインダーでも豆の状態などによって粉砕結果が完全に一定になるわけではありません。
だから、
刃間隔が同じ=粒度が同じ
とは考えられません。
そもそも「粒度」は一つの数字ではない
ここでもう一つ重要なのは、
「この粉は500μmです」
という表現です。
実際に挽いたコーヒー粉には、いろいろな大きさの粒があります。
500μm付近の粒が多かったとしても、
200μmの粒。
400μmの粒。
700μmの粒。
もっと大きな粒。
もっと小さな粒。
が混ざっていることがあります。
だから粉の状態を詳しく見るなら、
「何μmか」
だけではなく、
どの大きさの粒が、どのくらい含まれているか
を見る必要があります。
これが粒度分布です。
たとえば二つのグラインダーで、代表値としては同じ500μmだったとしても、
一方は500μm付近に多く集まっている。
もう一方は小さな粒から大きな粒まで広く分布している。
なら、粉の状態は同じではありません。
平均や代表値だけでは、その違いが消えてしまいます。
「刃間隔」「代表粒径」「粒度分布」は分けて考える
ここは混ざりやすいところです。
刃間隔は、グラインダー側の設定です。
粒径は、できあがった粉の大きさです。
粒度分布は、さまざまな大きさの粒がどのような割合で存在しているかです。
この三つは関係しています。
でも、同じものではありません。
刃間隔を変える。
粉砕のされ方が変わる。
その結果として粒度分布が変わる。
そして、その粉を使って抽出すると、水との接触や流れ方も変わる。
つまり、
刃間隔 → 粒度分布 → 抽出
と、途中に段階があります。
刃の隙間から味までを一直線につなげてしまうと、この途中が見えなくなります。
「目盛りを一つ細かくする」は、どのくらいの変更?
これもグラインダーによって違います。
目盛り10から9へ。
5から4へ。
数字では同じ「1」です。
でも、実際に刃の間隔がどのくらい変化したのかは同じとは限りません。
さらに、その変更によって粒度分布がどう変わるかもグラインダーによって違います。
だから、
「一目盛り細かく」
は、そのグラインダーを共有している人同士なら便利な言葉です。
しかし別のグラインダーには、そのまま移せません。
ここでも、
数字があることと、共通の単位で測っていることは違います。
では、挽き目はどう調整すればいい?
「正しい挽き目」を最初から探そうとすると難しくなります。
それより、
まず基準となる挽き目で淹れる。
結果を見る。
抽出時間を見る。
味を見る。
必要なら濃度なども測る。
そして、
何を変えたいのかを決める。
もう少し抽出を進めたい。
流れを遅くしたい。
味の強さを変えたい。
特定の風味をもっと感じたい。
目的が決まれば、そのための手段として挽き目を動かせます。
そして動かしたら、
「細かくした」
で終わらず、
その結果、何が変わったかを見る。
ここが重要です。
挽き目は、味を決める数字ではない
グラインダーの目盛りを決めると、それでレシピが完成したように感じることがあります。
でも目盛りは、味そのものではありません。
目盛りを変える。
粉の状態が変わる。
水との接触が変わる。
水の流れが変わることがある。
抽出時間が変わることがある。
抽出された液体が変わる。
そして、その液体を人が味として感じる。
間にはいくつもの段階があります。
つまり、
グラインダーの数字と味の間には、途中の現象がある。
ここを飛ばさない方が、調整した理由も結果も分かりやすくなります。
粗挽きと細挽きで、何が変わる?
一番簡単に言えば、
コーヒーと水の関わり方が変わります。
粒を細かくすれば、表面積が増え、粒の内部までの距離も短くなります。
そのため成分を取り出しやすくなります。
さらにドリップやエスプレッソでは、粉の層を水が通る条件まで変わります。
その結果、
抽出速度。
流れ。
抽出時間。
濃度。
抽出率。
味。
さまざまなところに変化が現れます。
だから、
「細挽きは濃い」
「粗挽きは薄い」
だけで覚える必要はありません。
それより、
挽き目を変えたら、何が変わる可能性があるのか。
そこを見る。
そうすると挽き目は、レシピに書かれた固定値ではなく、抽出を調整するための道具として見えてきます。