同じコーヒー豆を使う。
同じ量を使う。
同じ湯量、同じ温度、同じ抽出器具で淹れる。
挽き目も、できるだけ同じくらいに合わせる。
それでもグラインダーを替えると、出来上がったコーヒーの味が変わることがあります。
なぜでしょう。
「グラインダーの性能が違うから」
と言ってしまえば簡単です。
でも、それでは何が違ったのかが分かりません。
グラインダーそのものを飲んでいるわけではありません。
グラインダーが変わることで、
出来上がる粉の状態が変わり、その粉を使った抽出が変わり、その結果として一杯が変わります。
途中を一つずつ見てみましょう。
グラインダーは、豆を粉にする機械
グラインダーの役割を単純に言えば、
コーヒー豆を粉砕すること
です。
ただし、前の記事までで見てきたように、出来上がる粉は一つの大きさではありません。
大きな粒。
中心付近の粒。
細かな粒。
微粉。
さまざまな大きさの粒が含まれます。
つまりグラインダーが作っているのは、単なる「細かさ」ではなく、
ある粒度分布を持ったコーヒー粉
です。
グラインダーが違えば、この分布も同じとは限りません。
刃が違えば、砕かれ方も変わる
グラインダーにはさまざまな構造があります。
刃の形。
刃の大きさ。
刃に刻まれた溝。
刃の配置。
回転の仕方。
豆が刃へ入っていく経路。
粉が外へ出ていく経路。
こうした違いがあります。
豆は刃の隙間と同じ寸法に切りそろえられているわけではありません。
力を受け、割れたり砕かれたりしながら小さくなります。
だから、粉砕の仕方が違えば、
どの大きさの粒が多くなるか。
細かな粒がどのくらいできるか。
大きな粒がどのくらい残るか。
といった結果も変わる可能性があります。
刃の大きさだけで決まるわけでもない
グラインダーを見ると、
「64mm」
「83mm」
など、刃の直径が大きく表示されていることがあります。
確かに刃の大きさは、グラインダーを知るための情報の一つです。
ただ、
大きな刃=必ず良い粉
とは限りません。
同じ直径でも刃の形状が違います。
回転数も違います。
モーターも違います。
豆の送り方や排出の仕方も違います。
そもそも設計された用途が違う場合もあります。
刃径は一つの仕様ですが、それだけで出来上がる粉や味まで決められるわけではありません。
フラット刃とコニカル刃なら、どちらがいい?
グラインダーでは、
フラット刃。
コニカル刃。
という分類もよく使われます。
ここでも、
「フラットはクリア」
「コニカルはボディが出る」
といった説明を見かけます。
傾向として語られることはありますが、
刃の形式だけから味を決めるのは早すぎます。
同じフラット刃でも設計はさまざまです。
同じコニカル刃でも同様です。
刃の形式は、粉砕結果に関係する要素の一つ。
実際に知りたいのは、
そのグラインダーで豆を挽いた結果、
どんな粉ができたのか
です。
同じくらいの挽き目に合わせても違う
では二台のグラインダーで、出来るだけ同じくらいの挽き目に合わせてみます。
見た目も似ている。
代表となる粒径も近い。
それでも、粒度分布全体まで同じとは限りません。
一方は中心付近に粒が集まっている。
もう一方は細かい側にも大きい側にも広く分布している。
細かい側は似ているけれど、大きい側が違う。
大きい側は似ているけれど、細かい側が違う。
いろいろな組み合わせがあります。
つまり、
「同じ挽き目に合わせた」という言葉だけでは、粉の状態がどこまで同じなのか分かりません。
粒度分布が違えば、抽出も変わる
粉の状態が変われば、水との関わり方も変わります。
小さな粒と大きな粒では、成分が水へ移動する条件が違います。
さらにドリップでは、粉の層を水が通過します。
そのため、
粒度分布。
微粉量。
粉の配置。
水の通りやすさ。
などが変われば、抽出の進み方も変わる可能性があります。
同じレシピで淹れたとしても、
抽出時間が違う。
濃度が違う。
抽出率が違う。
そして味が違う。
ということが起こり得ます。
同じ抽出時間に合わせたら?
では、グラインダーAで2分30秒。
グラインダーBも挽き目を調整して2分30秒。
これなら同じでしょうか。
これも、
抽出時間が同じになった
ことは分かります。
でも、粉の状態まで同じになったわけではありません。
粒度分布が違う。
水の流れ方が違う。
抽出液の濃度が違う。
味が違う。
ということはあり得ます。
一つの結果を合わせたからといって、途中で起きている現象まで同じになったとは限りません。
TDSまで同じなら?
もう少し合わせてみましょう。
抽出時間も同じ。
出来上がった量も同じ。
TDSも同じ。
ここまでそろえば、かなり近づいたように見えます。
それでも、
味が完全に同じになるとは限りません。
TDSは、抽出液中に溶けているものの総量を見るための指標です。
「何が、どのくらい溶けているのか」を成分ごとに表しているわけではありません。
同じ濃度という情報は重要です。
しかし、それだけで香り、酸味、苦味、質感などが同じだとは言えません。
ここでも、
一つの数字が同じことと、状態全体が同じことは別
です。
粉の「量」だけでなく「場所」もある
前の記事では、微粉がどのくらいあるかだけでなく、
どこにあるか
も考えました。
グラインダーが違えば、粉の排出のされ方も違います。
静電気による付着の仕方も違うことがあります。
粉がまとまって落ちる。
容器の一部へ細かな粒が付きやすい。
グラインダー内部に一部が残る。
そうした違いがあれば、最終的に抽出器具へ入った粉の状態にも違いが生まれる可能性があります。
粒度分布という数字だけでは、粉の配置まですべて表せるわけではありません。
粉砕するときの熱は?
グラインダーでは、粉砕中に熱も発生します。
特に連続して大量に挽くような場面では、グラインダーや粉の温度が変化することがあります。
ただし、
「熱が出るグラインダーは味が悪い」
と単純につなげるのは避けた方がいいでしょう。
どのくらい温度が変わったのか。
どのような使用条件だったのか。
その変化が粉砕や抽出へどの程度影響したのか。
を分けて考える必要があります。
家庭で一杯分を挽く場合と、店で連続して何杯分も挽く場合でも条件は違います。
ここでも「熱が出た」という事実と、「だからこの味になった」という原因の説明は別です。
粉が残ることもある
グラインダーへ20g入れたからといって、毎回まったく同じ20gが、その豆だけで出てくるとは限りません。
内部に粉が残ることがあります。
前に挽いた粉が次に出てくることもあります。
こうしたものは、グラインダーの残留として考えることができます。
家庭で豆を頻繁に替える。
店で違う豆を挽き分ける。
一回ごとに重量を正確に管理する。
こうした使い方では、残留量や交換のされ方も無視できない要素になります。
つまりグラインダーの違いは、
粒度だけではなく、
実際に何gの、どんな粉が抽出に使われたのか
にも関係することがあります。
高いグラインダーなら、おいしくなる?
ここまで来ると、この質問にも少し答えやすくなります。
価格の高いグラインダーには、
刃。
モーター。
調整機構。
剛性。
加工精度。
処理能力。
操作性。
などにコストがかかっていることがあります。
それによって、自分の目的に合った粉砕結果や再現性を得やすくなることはあります。
でも、
価格そのものが味を作っているわけではありません。
高価なグラインダーだから、すべてのコーヒーで、すべての人にとって、必ずおいしくなる。
そんな単純な関係にはできません。
見るべきなのは値札ではなく、
そのグラインダーがどんな粉を作り、それが自分の抽出にどう働いたか
です。
「高性能」も、目的によって変わる
一日に一杯淹れる家庭。
忙しい店で一時間に何杯も提供する。
エスプレッソだけに使う。
ドリップだけに使う。
何種類もの豆を頻繁に替える。
同じグラインダーでも、求められる性能は違います。
家庭なら、扱いやすさや掃除のしやすさが重要かもしれません。
店舗なら、処理速度や連続使用時の安定性も重要になります。
豆を頻繁に替えるなら、残留の少なさが重要になるかもしれません。
だから、
「一番性能のいいグラインダー」
というものを一つ決めるより、
何をするための性能なのか
を先に考えた方が選びやすくなります。
グラインダーが違うと、味も変わる?
変わることがあります。
ただし、
「グラインダーAの味」
という何かが、そのままカップへ入っているわけではありません。
グラインダーが変わる。
粉砕のされ方が変わる。
粒度分布や粉の状態が変わる。
粉の配置や水の流れも変わることがある。
抽出結果が変わる。
その結果として、感じる味が変わる。
つまり、
グラインダー
→ 粉
→ 抽出
→ カップ
という途中があります。
だからグラインダーを比較するときも、
「Aの方がおいしかった」
で終わらせず、
何が違ったのだろう
と一段戻ってみる。
粒度分布だったのか。
微粉だったのか。
流れだったのか。
濃度だったのか。
それとも別の条件だったのか。
そこまで見ていくと、グラインダーの違いは「機械の格付け」ではなく、抽出を理解するための情報になります。