抽出を調整するとき、何から変える?

コーヒーを淹れて飲んでみる。

少し酸味が強い。

苦味が残る。

香りが弱い。

軽すぎる。

重すぎる。

いつもと違う。

そこで、

「挽き目を変えよう」

「温度を下げよう」

「抽出時間を長くしよう」

と調整します。

もちろん、それで良くなることもあります。

でも、その前に一つあります。

何を変えるかを決める前に、何が違うのかを見る。

抽出の調整は、ここから始めた方が迷いにくくなります。

まず、何が気になったのか

「おいしくない」

これも立派な感想です。

ただ、調整するときには、もう少しだけ分けてみます。

酸味が強く感じる。

苦味が長く残る。

甘さを感じにくい。

香りが弱い。

口当たりが軽い。

重たく感じる。

後味が乾くように感じる。

いつもより薄く感じる。

こうすると、

「おいしくない」

から、

何が違ったのか

へ少し近づきます。

最初から専門的な言葉を使う必要はありません。

自分が感じた違いを、できる範囲で言葉にすれば十分です。

感じたことと、原因を分ける

ここで大切なのが、

観察と原因を一緒にしないこと

です。

「酸っぱい」

は、感じたことです。

「抽出不足」

は、その原因についての判断です。

「挽き目が粗すぎる」

まで行けば、さらに具体的な仮説です。

この三つは違います。

たとえば、

酸味を強く感じた
→ 抽出が十分進んでいないのではないか
→ 挽き目を細かくしてみよう

という順番なら、何を考えて操作したのかが残ります。

でも、

酸っぱい=粗すぎる

としてしまうと、途中の判断が見えなくなります。

「酸っぱいなら細かく」は便利だけれど

抽出の調整方法には、

酸っぱいなら細かく。

苦いなら粗く。

薄いなら豆を増やす。

濃いなら水を増やす。

といった早見表があります。

入口としては便利です。

実際、その操作で改善することもあります。

ただし、

酸味の原因は一つではありません。

苦味の原因も一つではありません。

「薄い」という言葉も、前に見たように複数の意味を持っています。

だから早見表は、

答えではなく、最初に試す仮説

くらいに考えると使いやすくなります。

何を変えたいのかを決める

調整する前に、

最終的に何を変えたいのか

を決めます。

たとえば、

もう少し甘さを感じたい。

苦味の残り方を弱くしたい。

香りを感じやすくしたい。

濃度を少し下げたい。

抽出のばらつきを小さくしたい。

同じ「調整」でも、目的が違えば操作も変わります。

「とりあえずレシピを変える」ではなく、

どこへ動かしたいのか

を先に決めます。

次に、今の状態を見る

味だけでなく、すでに持っている情報を見ます。

いつものレシピ。

今日の抽出時間。

出来上がり量。

湯温。

挽き目。

豆の状態。

必要ならTDSや抽出率。

全部を見る必要はありません。

まず、普段記録しているものから見ます。

たとえば、

いつも3分前後なのに今日は4分30秒。

なら、これはかなり分かりやすい変化です。

逆に時間も出来上がり量もほぼ同じなのに味だけ違うなら、別のところを見る理由になります。

「いつもと違う」は重要な情報

店で毎日同じコーヒーを淹れている場合、

理論上の正解より役立つことがあります。

それが、

いつもの状態

です。

いつも3分。

今日は4分。

いつもTDS 1.30%前後。

今日は1.15%。

いつも流れが安定している。

今日は後半だけ急に遅い。

こうした違いは、何かが変わった手掛かりになります。

基準があるから、変化に気づけます。

まずレシピへ戻す、という方法もある

昨日までは問題なかった。

今日は違う。

そんなとき、すぐ新しいレシピを作る必要はありません。

まず、

粉量。

湯量。

挽き目。

温度。

注ぎ方。

などが基準から外れていなかったか確認する。

外れていたなら、いったん戻してみる。

これは、

「レシピが絶対だから戻す」

のではありません。

原因を探すために、比較できる場所へ戻る

ということです。

レシピは、こういうときにも役立ちます。

基準通りなのに違ったら

問題はここからです。

設定はいつも通り。

でも結果が違う。

なら、

レシピに書かれていない何かが変わった可能性があります。

豆の状態。

焙煎からの日数。

グラインダーから出た粉の状態。

水。

粉床。

流れ。

温度履歴。

いろいろ考えられます。

でも、全部を同時に調べる必要はありません。

今見えている違いから、可能性の高いものを一つ考える。

それで十分です。

仮説を立てる

たとえば、

いつもより抽出が遅い。

後半で特に流れが悪くなった。

味にも違いがある。

ここから、

「粉が細かすぎたのではないか」

という仮説を立てることができます。

あるいは、

「微粉の移動によって粉床の通水性が変わったのではないか」

かもしれません。

この時点では、まだ答えではありません。

確かめるための候補

です。

仮説なら、外れても問題ありません。

むしろ外れたこと自体が情報になります。

一つ変える

仮説を確かめたいなら、操作をします。

たとえば挽き目を少し粗くする。

そして、もう一度抽出します。

ここで、

挽き目を粗くする。

温度も下げる。

湯量も増やす。

注ぎ方も変える。

と全部やってしまうと、結果が良くなっても何が効いたのか分かりません。

原因を知りたいなら、

まず自分が操作する項目を一つにする

のが基本になります。

「一つ変える」と「一つだけ変わる」は違う

ただし、ここは少し注意が必要です。

挽き目だけ変えた。

だから変わったのは挽き目だけ。

ではありません。

挽き目を細かくすれば、

粒度分布が変わる。

水の流れが変わる。

抽出時間が変わる。

濃度が変わる。

抽出率が変わる。

可能性があります。

つまり、

操作した項目は一つでも、結果として変化する現象は複数あります。

「一つずつ変える」というのは、

世界の変数を一つだけ動かせるという意味ではありません。

自分が何を操作したのかを分かるようにする

という意味です。

結果を見る

挽き目を変えた。

もう一度淹れた。

では、

どうなったでしょう。

狙った味に近づいた。

抽出時間も変わった。

TDSも変わった。

それなら、その操作と結果の関係が一つ見えてきます。

逆に、

挽き目を変えた。

時間は変わった。

でも味はほとんど変わらなかった。

これも結果です。

「挽き目を変えればこうなるはずだった」

ではなく、

実際にはどうなったか

を見ます。

予想と違ったら?

たとえば、

酸味が強かった。

抽出不足だと思った。

細かくした。

でも、狙った方向には変わらなかった。

ここで、

もっと細かくする。

さらに細かくする。

と仮説を守り続ける必要はありません。

最初の仮説が違った可能性があります。

あるいは、挽き目以外の条件が強く影響しているのかもしれません。

だから、

結果が予想と違ったら、仮説へ戻る。

これができます。

仮説は守るものではありません。

確かめるために作ったものです。

味だけで判断する?

最終的に飲むコーヒーなら、味は重要です。

ただ、味だけでは原因を考えにくい場合があります。

そこで必要なら、

抽出時間。

出来上がり量。

TDS。

抽出率。

などを加えます。

たとえば、

昨日より薄く感じた。

TDSも下がっていた。

なら、感覚と濃度の変化が同じ方向にあります。

一方、

薄く感じた。

でもTDSはほぼ同じだった。

なら、

「薄く感じた=濃度が低かった」

という最初の考えを見直すことができます。

測定値は、味を判定するためではなく、

味について考える材料を増やすため

に使えます。

数字だけで判断する?

逆も同じです。

抽出率が18%だった。

だから上げなければならない。

21%になった。

成功。

とは限りません。

狙っている味が18%付近で出ているなら、その数字には意味があります。

21%にして好ましくなくなったなら、

「数字は上がったが、目的から離れた」

という結果です。

数字は比較に便利です。

でも、

調整の目的を決めるのは数字ではありません。

何から変えるかに、固定した順番はある?

「まず挽き目を変える」

「まず温度」

「まず湯量」

と決めてしまえば簡単です。

実際、運用上のルールとして優先順位を決めることはできます。

店なら、

粉量と湯量は固定。

温度も固定。

日々の調整はまず挽き目。

というルールにすることもできます。

これは合理的です。

動かす項目を限定すれば、スタッフ間でも共有しやすくなるからです。

ただし、それは、

挽き目がいつでも原因だから

ではありません。

運用上、

最初に操作する変数として挽き目を選んでいる

ということです。

ここは分けておいた方がいいでしょう。

調整しやすい項目と、原因は同じではない

たとえば水の状態が変わったことで味が変化したとします。

それでも店では、水をすぐ変更できないかもしれません。

そこで挽き目を調整して、狙った味へ近づける。

これは十分あり得ます。

つまり、

原因になったものと、調整に使うものは同じでなくてもいい

のです。

原因を知ること。

結果を調整すること。

これも別の目的です。

この区別ができると、

「挽き目を変えたら直った。だから原因は挽き目だった」

とも限らないことが分かります。

どこまで調整する?

少し違う。

だから0.1目盛り変える。

まだ違う。

温度を1℃変える。

さらに注湯を2秒変える。

細かく調整しようと思えば、いくらでもできます。

でも以前見たように、

測れる細かさと、意味のある細かさは同じではありません。

抽出そのものに毎回ばらつきがあるなら、それより小さな差を追いかけても意味を判断できないことがあります。

まず、

同じ条件でどの程度ばらつくのか。

を見る。

その範囲より明らかに大きな変化なのか。

それから調整の細かさを決める。

これも基準の解像度の問題です。

一回で決めない

一回淹れた。

味が違った。

レシピ変更。

これは少し急ぎすぎる場合があります。

たまたま注ぎ方が違ったのかもしれません。

測定誤差かもしれません。

評価のばらつきかもしれません。

必要ならもう一度同じ条件で試します。

それでも同じ傾向が出る。

そこで初めて、

基準そのものを変える理由が強くなります。

一回の違いを観察することと、一回の違いで基準を変えることは別です。

調整した結果を残す

調整は、その場で味を直すだけにも使えます。

でも、

何を感じたか。

何を考えたか。

何を変えたか。

どうなったか。

を簡単に残しておけば、次回の情報になります。

たとえば、

「酸味強い」

だけではなく、

「酸味が強く、甘さが弱く感じた。抽出時間2:20。挽き目を1段細かくした。2:45になり、甘さが感じやすくなった」

と残す。

すると、

観察 → 仮説 → 操作 → 結果

がつながります。

これが積み重なると、レシピそのものより役立つことがあります。

調整は、正解探しではない

抽出を調整していると、

「この豆の正解レシピ」

を探しているような気持ちになることがあります。

でも豆は変化します。

焙煎後の日数も変わります。

グラインダーの状態も変わります。

水や環境も完全には固定されません。

そして、作りたい味が変わることもあります。

だから一度見つけたレシピを永久保存して終わり、とはなりません。

レシピは、

その時点で目的に合っている基準

として使う。

違いが出たら観察する。

必要なら調整する。

そして、繰り返し結果が変わるなら基準そのものを更新する。

それでいいのです。

抽出を調整するとき、何から変える?

最初に変えるのは、

レシピではありません。

まず、

何が起きたかを見る。

次に、

何を変えたいのかを決める。

そこから、

なぜそうなったのか仮説を立てる。

そして、

確かめるために一つ操作する。

結果を見る。

予想と違えば、仮説へ戻る。

必要なら別の項目を見る。

必要なら測定の解像度を上げる。

繰り返し確かめて、それでも基準が目的に合わなければ更新する。

流れにすると、

観察する
→ 目的を決める
→ 仮説を立てる
→ 操作する
→ 結果を見る
→ 比較する
→ 必要なら更新する

となります。

「酸っぱいから細かくする」

より少し面倒です。

でも、この手順なら、早見表に載っていないコーヒーにも対応できます。

そして何より、

うまくいかなかった一杯も、次の判断に使える情報になります。

抽出を調整するというのは、正解の数字へ近づけることではありません。

変化を観察して、目的に近づくための次の操作を決めること。

ここまで来ると、抽出は「レシピを覚える話」から、かなり離れます。