コーヒーについて記録を続けていると、少しずつデータが増えていきます。
生豆の状態。
焙煎の温度や時間。
火力や排気の操作。
抽出条件。
そして、実際に飲んだときの結果。
こうした記録が増えてくると、
「この条件なら、たぶんこうなる」
と考えられることがあります。
たとえば、以前と似た生豆を焙煎するとき。
過去の記録を見れば、
「このくらいの変化で進みそうだ」
「前回はこのあたりで1ハゼが始まった」
「この条件では、こんな味になった」
と予想するための材料になります。
抽出でも同じです。
同じ豆を使って何度か抽出していれば、
「この挽き目なら、このくらいの時間になりそうだ」
「もう少し細かくすると、流れ方が変わりそうだ」
と考えることができます。
では、データをたくさん集めれば、次の結果を正確に予測できるようになるのでしょうか。
ここで大切なのは、
過去のデータは、過去の条件で起きた結果だということです。
今回も、すべての条件が同じとは限りません。
生豆なら、同じ産地や品種でも収穫された時期が違うことがあります。
含水率や水分活性、密度などの状態も違うかもしれません。
保管されてきた環境も違います。
焙煎では、バッチ量や焙煎機の蓄熱状態なども結果に関係します。
抽出でも、豆の経過日数や挽いた粉の状態、水、器具など、さまざまな条件があります。
つまり、
過去と似ていることと、過去と同じであることは別です。
それでも、過去のデータには意味があります。
何もないところから考えるより、
「以前、似た条件ではこうなった」
という情報があれば、最初の予想を立てやすくなるからです。
ここで、予測を「正解を当てること」と考えないようにします。
まず、
「今回はこうなるのではないか」
と予想します。
実際にやってみます。
そして、
予測と実際の結果を比べます。
予測通りだったのか。
少し違ったのか。
大きく違ったのか。
違ったなら、何が違ったのでしょうか。
見落としていた条件があったのかもしれません。
今回の豆の状態が違ったのかもしれません。
これまで関係があると思っていた条件が、実はそれほど大きく影響していなかった可能性もあります。
そこで、予測の仕方を修正します。
次に似た条件に出会ったときには、その結果も含めて考えます。
データが増えるということは、正解が増えることではありません。
比較できる過去が増えるということです。
比較できるものが増えれば、
「これは前回と似ている」
「ここは違う」
と考えられるようになります。
そして、その違いを使って次の結果を予測します。
これは焙煎プロファイルを見るときにも同じです。
過去にうまくいったプロファイルがあれば、それを参考にできます。
しかし、その線をそのまま再現することだけが目的になると、
今回の豆が前回と違う動きをしていても、過去の線に合わせようとしてしまうことがあります。
プロファイルは、
これからどうなるかを考えるための情報
としても使えます。
「このまま進めば、次はどうなりそうか」
「予想より変化が速いのか、遅いのか」
「予定していた操作をそのまま続けていいのか」
過去の記録と現在の状態を比べながら判断します。
そして結果が出たら、カップを確認します。
予測した味になったのか。
違ったなら、どこが違ったのか。
その結果も、次のデータになります。
記録する。
比べる。
予測する。
実際に試す。
結果との差を見る。
予測を修正する。
この繰り返しによって、データは単なる過去の記録ではなく、次の判断に使える情報になっていきます。
予測が外れることにも意味があります。
予測通りなら、これまで考えていた関係をもう一度確認できます。
外れたなら、
自分がまだ見ていなかった違いを探すきっかけになります。
データを集める目的は、未来を完全に当てられるようになることではありません。
今ある情報から予測し、結果を見て、その予測を少しずつ良くしていくことです。